知識社会のトップマネジメント
ドラッカーの『ネクスト・ソサエティ』をパラパラと読み返していると、次のような記述がある。
→と、ここで先日のコラムに引き続き、またまたオーケストラネタだ(^^;
→ちなみにBGMはチェリビダッケ指揮@シュツットガルト放送響のブラームス交響曲第4番&第1楽章リハーサル(^^;
知識を基盤とする企業にもっとも似た組織がオーケストラである。そこでは三○種類もの楽器が同じ楽譜を使って、チームとして演奏する。偉大なソロを集めたオーケストラが最高のオーケストラではない。優れたメンバーが最高の演奏をするものが最高のオーケストラである。
オーケストラの立て直しを頼まれた指揮者は、あまりにだらしのない者や年をとりすぎた者しか交替させられない。新しいメンバーを大勢入れるわけにはいかない。引き継いだものを最高のものに変えなければならない。そこで優れた指揮者は、各演奏者、各パートとの接触を深める。雇用関係は与件であって、メンバーは変えられない。したがって、成果をあげられるのは指揮者の対人能力である。
また、ほかの箇所にも、
実は、書類仕事を減らすことのメリットは、人間関係に使う時間を増やすことにある。企業の幹部たる者は、大学の学部長やオーケストラの指揮者ならば当然のこととしていることを知らなければならない。優れた組織をつくりあげる鍵は、働き手の潜在能力を見つけ、それを伸ばすことに時間を使うことで ある。
と書かれている。
すなわち、ネクスト・ソサエティは知識社会なのであり、だとすればリーダーに一番求められることは、個々の組織のメンバーが持っている潜在能力が十分に発揮されるように、どれだけの時間を注き、メンバーの能力を伸ばしていけるのかということである。
リーダーがそれを実践していく姿のひとつとして「書類仕事を減らす」と指摘しているところが面白い。
いっそうのこと、パソコンも付け加えて「知識社会にふさわしいリーダーは書類仕事とパソコン業務に時間をかけない」と言ってしまったほうが、リーダー的存在には身に染みてわかりやすくなるかもしれない(^^;
ただ、指揮者とオーケストラをモデルにして説明する場合には、「楽譜」を共有していることが前提であることを忘れてはならない。
組織にあてはめると、これは基本理念やビジョンといったものだ。
ここで、オーケストラの指揮者から知識社会におけるリーダー像を学べると仮定して、その指揮者をチェリビダッケだとして、その特徴的な事柄を挙げてみると次のようになる。(参考にしたのはチェリビダッケによるミュンヘン・フィルとシュツットガルト放送響の多数のライブCDとブルックナー9番・ブラームス4番のリハーサル収録CDである。しかし、あくまでも私の独断と偏見による把握の仕方ではあるが)
- ほぼ全てのコンサートで楽譜を暗譜して指揮している
- リハーサルにかける時間が他の指揮者の数倍という練習量の多さ
- 楽器のチューニングに毎回異常に時間をかけたり、常にまわりの音を聴くことに注意を喚起させることで、濁らない完璧なサウンドを目指している
- 一度指摘した演奏上の問題点で、改善されていないことは、繰り返し根気強く指摘し続けている
- たとえ本番の演奏中であっても、改善すべきことを発見し、それが身振りですぐに伝わらないことであれば、大声で注意したり、気合いを入れたりする
- 良いところを褒めることを忘れない。ミスをする可能性がありそうで不安に思うメンバーの気持ちを先回りして、その対処法を示し、安心して取り組めるようにしている
と、ほかにもたくさんあるのだろうが、すぐに気づく点はこのようなところだ。
では、組織の基本理念やビジョンから完璧な作品ともいえる成果に導いていくのに、上記チェリビダッケの特徴を企業のリーダー像と重ね合わせてみよう。
◆「ほぼ全てのコンサートで楽譜を暗譜して指揮している」
組織の基本理念やビジョンについては、完全に頭の中に入っていて、それを個々の組織メンバーの具体的なアクションに落とし込めばどのようになるのか、その場その場で指摘と説明ができるレベルで把握できている
◆ 「リハーサルにかける時間が他の指揮者の数倍という練習量の多さ」
普段から研修を行ったり、個々のメンバーと時間を割いてコミュニケーションを交わす中で、基本理念やビジョンの浸透を促している。組織メンバーが基本理念やビジョンを暗記していたらよいのではなく、それに沿って自然と体が動くように時間をかけて導いていく。
◆ 「楽器のチューニングに毎回異常に時間をかけたり、常にまわりの音を聴くことに注意を喚起させることで、濁らない完璧なサウンドを目指している」
基本理念やビジョンに沿っていれば、メンバーは何をしてもよいというのではない。
それは組織として共鳴させた上でないと意味をなさない。
そのためにはメンバー相互の考えや行動から学んでいく仕組みと、そうしていこうというメンバーの姿勢を促していくことが必要。
また、組織として理念・ビジョンを共鳴しているがゆえに、組織的な戦略クラフティングが可能となる。
◆ 「一度指摘した演奏上の問題点で、改善されていないことは、繰り返し根気強く指摘し続けている」
企業においても文字どおりあてはまる。
指摘したことが組織の隅々に根付いていくには時間を要するし、根気も必要。
◆ 「たとえ本番の演奏中であっても、改善すべきことを発見し、それが身振りですぐに伝わらないことであれば、大声で注意したり、大声で気合いを入れたりする」
自分の体裁よりも作品の完成度優先。改善点の指摘は本番中であってもその場で行う。
◆「良いところを褒めることを忘れない。ミスをする可能性がありそうで不安に思うメンバーの気持ちを先回りして、その対処法を示し、安心して取り組めるようにしている」
数字の把握、行動の把握だけにとどまらず、個々のメンバーの心理まで読み取って指示している
さて、私は以上のようにチェリビダッケの振る舞いを読み取り、組織のリーダー像に無理矢理当てはめてみたわけだが、少しは参考になっただろうか?
なかなか難しそうだと思われただろうか?
そのように思われるだろうと書いたわけだが(^^;
ドラッカー自身もこれからの時代、トップの仕事はたいへんだと言っている。
でも、基本理念とビジョンを組織で活かしきれば、マネジメントは可能だとも言っているのだ。
今後のトップの仕事は、私が知りうるかぎりもっとも複雑な仕事、すなわちオペラの総監督の仕事に似たものとなる。スターがいる。命令はできない。共演の歌手が大勢いて、オーケストラがいる。裏方がいる。そして聴衆がいる。すべて異質の人たちである。しかし総監督には楽譜がある。みなが同じ楽譜をもっている。その楽譜を使い、最高の結果を出す。トップが取り組むべき仕事がこれである。
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