2001/7/23 月曜日

「21世紀型マーケティング」(#004)SWOT分析は使えない

Filed under: 経営戦略 — 咲本 @ 15:22:59

『日刊「WEBのツボ」 ~次世代WEBマーケティングを読む~』に掲載
http://www.soho-union.com/

【○】本日のお題 「21世紀型マーケティング」(#004)    ━━
咲本@時計台ネット
▽ SWOT分析は使えない

前回は、マーケティングの基本と言われている4Pという考え方に、私なりのダメ出しをさせていただいたつもりです。ダメなものを考え方の基本にしたら、出る結論もダメなものとなるに決まっています。今回のお題にあげました「SWOT分析」というものも、マーケティング屋さんを含むコンサルティング業の方々が、まるで常識のように使う代表的手法のひとつです。名称くらいは聞かれたことのある方も、いらっしゃるのではないでしょうか?ところがこの手法、実は、巨大企業における戦略分析以外には、「使えない」代物なのです。

では、SWOT分析を簡単にご説明いたしましょう。
まず、企業戦略を内部的能力と外的可能性に分けます。
前者、企業の内部的能力として、
S=Strengths(強み)
W=Weaknesses(弱み)
後者、企業の外的可能性として、
O=Opportunity(機会)
T=Threats(脅威)
と、4つの要素に分け、それらを調和させ、適合させる分析手法です。
分析するからには、あらゆる情報を数値化し、膨大なデータをコンピュータで解析した結果から戦略立案をするわけです。

身近にコンサル屋さんがいらっしゃる場合、その方から「御社の強み・弱みはどこにありますか?」という発言を耳にされたことありませんか?これは、SWOT分析の考え方に影響されたコンサルの質問かと思います。
ここまでの説明だけでは、「至極尤もな手法であり、使えそうやん!」とお感じの方も多いかと思います。

しかし、「巨大企業以外」の企業の現場にこれを持ち込みますと、様々な問題点が浮上してきます。

【問題点】
1.企業の内部的「強み」と思われる点が、本当に強みと言い切れない場合がある。
「強み」という考えは、抽象的かつ相対的なものです。「ここは強い!」と 考えても本当に強いのかどうか怪しいものです。 また、「強み」と考えることによって、自爆することがあり得ないでしょうか? 例えば、分析結果の強みが、「商品の安さ」という場合はどうでしょうか? 他社が自社より価格を安くすれば、もうそれで自社の強みがなくなってしまいます。 それはマズいと、更なる安売りを続けていけば、いずれはそれが致命傷となりかねませんよね。
2.「強み」と分析された点が、強みでない場合が多い。
1.で申し上げた例ですと、「商品の安さ」ということは、実は強みではなかったと考える方が自然です。 SWOT分析の延長線上に「コア・コンピタンス」という有名な概念がありますが、これなども、コア・コンピタンスなど企業内部に存在しないだろう企業がほとんどのはずであり、それにも関わらず、気軽にこの言葉を使うコサル屋さんが多いことには辟易いたします。
3.「強み」がなく、「弱み」があまりにも多すぎる場合が多い。
あまりにも多すぎる弱みを、「全て何とかしなさい!」と言われましても、現実的には不可能です。また、分析次第では、企業内部の全てが弱みという恐ろしい事態もあるでしょう(^_^;)
4.外的な「機会」と「脅威」を過去データからいくら分析してみても、新たに予想外の事態が頻出するものです。
これだけ激動の世の中であれば、突然予想外のビジネスチャンスやピンチがやってくるものです。机上のデータ分析だけから「戦略策定」をしようとしても、このような外部要因には対応出来ません。また、各部署に細かく策定れた戦略を実践するように要求されているわけですので、予想外のチャンスにもピンチにも身動きが取れません。
5.そもそも過去データの分析をベースにした「戦略策定」なので、新規性のある戦略はあり得ず、結論は、低価格化戦略か特定分野への資本集中化戦略という平凡なものばかりです。
新規事業や歴史のないベンチャーにも、過去データが存在しないが故にこの分析は使えません。 余談ですが、「経営」は「診断」するべきものではなく、「戦略」は「策定」するべきものではないと日々感じています。
6.机上での分析をベースにしているので、現場の状況とはかけ離れたものになってしまう。

以上、問題点を取り上げましたが、結論としては、SWOT分析というのは、とてもではありませんが、お勧めできるような代物ではないということです。

しかし、SWOT分析をベースにした考え方は、大型書店のビジネス書コーナー枠のかなりのスペースを割くような、メジャーなものとなっています。 有名なところでは、マイケル・ポーターなどもこれをベースにしつつ、「ポジショニング」という有名な考え方を追加しています。(かなり簡略に申しています)
あと、あちこちで良く見かける「○○○の競争戦略」などと題されたものも、この一派だと考えて間違いないところでしょう。
これらについても詳しいことは省略しますが、業界シェアトップの大企業で、二位との差もあいていて、業界内の競争があまり激しくない比較的安定した企業でないと、取り入れることは止めておかれた方が良いでしょう。(ということは、どの企業も取り入れることが出来ないのも同然!?)

私がこのようなことがはっきりとわかるということは、世のコンサル屋さんも、ウスウス気付いていてもおかしくないはずです。
そうです、おそらくはわかっている方々もいらっしゃることでしょう。
ではなぜ、SWOT分析及びそこから派生する戦略が、これだけ声高らかに語られるのでしょうか?

【理 由】
1.分析の結果、膨大な量の報告書が生まれます。膨大な量の報告書をクライアントに提出することで、多額のコンサルフィーを請求しやすい面があります。コンサル屋としては、商売上おいしい(^_^;)
2.大企業の部門担当者自身が、戦略に責任を負いたくないため、コンサルを採用し、責任回避する場合があります。コンサル側としても、報告書には、多岐にわたっての細かな指示がなされており、企業側が全てを完璧に実践し切れないことはわかっいるので、もし成果が出なくても、企業側が完璧な実践をしなかったことが原因であると言い訳する余地があります。
双方とも責任回避をするのに都合が良いということがあります。
3.MBAコースとかでデフォルトで教えられていることなので、受講した方なら、おそらくは無条件で「正しい」ことだと思い込んでしまっています。
4.書棚にたくさん目立つように置いて販売されていることから、一般読者が、世の中の時流だと思い込み、正しいことだと洗脳されてしまいがちです。

少しばかりベタなお話もさせていただきましたが、このダメな分析が採用されるワケがおわかりいただけたのではないでしょうか。

前回、今回と、マーケティングを考える時の「常識」だと思われているものの代表的な考え方が、いかにダメなものかをご説明いたしました。

これらを部分的に修正したり、新規に要素を追加したりしたところで、かなりの無理があることは間違いありません。
例えば、(社)日本マーケティング協会監修の『インターネット・マーケティング・ベーシックス』(日経BP社)という教科書的な書籍が手元にありますが、すばらしく優秀な方々による執筆にもかかわらず、敢えて話を4Pからスタートしようと決められたので、4Pに入らない事項も無理矢理どこかに押し込まないといけなかったりして、しなくても良いご苦労をされていると感じてしまうのは、私だけでしょうか?
まるで、どんどん拡大する憲法九条の解釈論議のような展開となっています。
残念です。

また、よって立つ思想的基盤もないのに、単に「○○マーケティングが新しい」と、続々登場するマーケティングのトレンドを追いかけることにも、あまり意味がありません。
私達は、このようなものに振り回されない全く新たな地平からマーケティングをスタートさせていきましょう。

まず必要なのは、マーケティングについての新しい考え方、発想の仕方の枠組みです。

それに先立ち、考えていくのに前提となる思想的基盤をご紹介する必要があります。
次回は「暗黙知とは?」をお話させていただきます。

《2002.11.5追記》 私に対して投稿メールをいただく中で、あまりにも、決まりきったパターンが多くいただきましたので、ここに追記させていただきます。
まず、SWOTが有効という立場から、発言したいのであれば、少なくとも、世界中でそれによる成功した有名事例を私にご紹介していただきたい。少なくとも、有名な失敗事例は厳然として存在しているわけなのだが。。。
あと、SWOTが有効であるとの思想的根拠を示していただきたい。
私としては、「要素還元主義」に陥っているということで一蹴してしまっている。
それに加えて、氏名、所属企業名、役職を明記していないと、いくらメールをお送りいただいても、無視いたします。
初対面の人間から、コメントを求めたい場合には、常識であると思っています。
私のサイトは2チャンネルではありません(^^;

【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。ネットビジネスとマーケティングのコンサル業。
住宅・住設・インテリアメーカーのマーケティング会社勤務を経て独立。
秋から年末にかけて開催予定のいくつかのイベントに関わっています。
まだ夏だと思っていても、今から準備していかないと、間に合いませんからねえ。

http://www.sakimoto.biz/
mailto:sakimoto@tokeidai.net
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2001/07/23)

2001/7/16 月曜日

「21世紀型マーケティング」(#003)4Pが崩壊しつつある

Filed under: マーケティング — 咲本 @ 15:27:24

『日刊「WEBのツボ」 ~次世代WEBマーケティングを読む~』に掲載
http://www.soho-union.com/

【○】本日のお題 「21世紀型マーケティング」(#003)    ━━
咲本@時計台ネット

▽ 4Pが崩壊しつつある

いまさら言うまでもなく、マーケティングにおける4Pとは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)のことであり、これら4つを組み合わせて戦略展開することをマーケティングミックスなどと呼んだりします。

しかし、Webの出現後、この4つのPそれぞれが、大きく様相を変えてきているように見えます。古く遡れば、80年代に流行ったドゥルーズ=ガタリ『アンチ・オイディプス』の思想などにもその兆しが見て取れるかと個人的には思っています。

今回のご提案は、この4Pを字句通り受け取りマーケティング戦略を考えても、有効なものとはならないのではないか、あるいは、そもそも4Pを基本に考えるという切り口自体、使える代物ではないのではないかということです。

さて、4Pのそれぞれの要素をひとつひとつ見ていくことにしましょう。

まず、一つ目の製品(Product)。
元来普通に考えられてきた「顧客が『製品』を購入する」という発想だけから生まれた製品の売れ行きが、芳しくないようであります。
わかりやすい例で言いますと、顧客はスターバックスのラテを「製品として購入する」と捉えるのか、「『スタバする』という体験・経験にお金を払う」と捉えるのか、それによって、マーケティング戦略がガラッと変わります。
前者は、「モノの販売する」立場、後者は「モノそのものだけではなくモノを取り巻く時間・空間をを含めた経験・体験に価値を感じて貰い、その対価としてお金を払ってもらう」という立場です。
私の場合は、基本的に後者の立場から発想していきたいと考えています。
また、企業側が製品を「開発」するという発想も様変わりしつつあります。
たのみコム http://www.tanomi.com/ や、空想生活 http://www.cuusoo.com/ に見られるように、最早、顧客はProductへの参加を始めています。この顧客参加型開発とでも呼ぶべき大きな動きをProductと大雑把な切り口で考えるのには、少し違和感を覚えるのは私だけでしょうか。

二つ目の価格(Price)。
これも端的に事例を挙げますと、メーカー希望小売価格の減少とオープン価格の増加、ネット上のオークションの賑わいにみられるように、企業側で都合良く価格設定することが、だんだんと難しくなってきています。いわば、価格は顧客が決めるものと言ってしまっても良いほどの状況になってきています。

三つ目は流通(Place)。
この点は4Pで最も重要です。というより、この点だけがキモであり、他はもっと違った切り口で考えるべきだと考えています。
ただ、現在、流通を考えるのは、5年前位に考えるのとは比較にならないほど、複雑かつ多岐な方法が存在していますので、詳しくは、別の機会にお話させていただくことにいたします。

最後にプロモーション(Promotion)。
パーミション・マーケティング http://www.shoeisha.com/book/hp/pc/permission/ やバイラル・マーケティング http://www.ideavirus-j.com/ が注目される中、「プロモーション」という名の一方的な「宣伝」「売り込み」的な方法が必ずしも効果的であるとはいえなくなってきています。
企業側がいくらメッセージを発信しても、今や顧客側の方に支配権があるといえなくはないでしょうか?
一部のインターネットのユーザーなら、企業からのメッセージを選んで受け取り、そのメッセージに対して、自ら情報発信し、企業の意向とは関係なく、オンライン上に世論さえ形成してしまうことさえあり得ることとなっています。
どこの企業かは言いませんが、二重価格表示や誇大広告などの姑息な手段を行っても、インターネットというツールを手にした顧客は、すぐにウソを見抜いてしまい、オンライン上でそのウソについて情報発信されてしまい、「プロモーション」を行ったことが、逆に致命傷ともなりかねません。
また、何らかのプロモーションを行うよりも、オンライン・コミュニティ運営をうまく行った方が、顧客忠誠度(ロイヤルティ)向上には、大きな効果を得ることが出来るはずです。
もう、こうなれば、プロモーションという括りで考えることには、かなり無理がありますよね。

以上、簡単に4つのPについて見て回りましたが、マーケティングの教科書に、必ず載っている基本中の基本たる4Pという切り口が、いかに現状と照らし合わせてしっくり来ないものか、少しはわかっていただけたものかと思います。

ついでに申しますと、マーケティングにおいてたいへん重要な点が4Pには、欠落しています。
ではその点について、餃子の王将という京都本社のチェーン店での私の経験をお話しましょう。 http://www.ohsho.co.jp/
(尚、王将には前もって事例として発表をするとの断りを入れております←返事なし)
先日、王将の第1号店に食事に行きまして、定食の味噌汁を飲んだ時のことです。
口に広がる酢をがぶ飲みしたような感覚、思わず、店員にそのことを伝えました。
店員も私に出した汁を飲んでその味を確認し、ストックの汁も確認しました。
どちらの味噌汁も強烈に酢っぱい味がしたそうです。
ところが、私にたいして「すみません」とボソッと言うだけで、後に来た客に平気で味噌汁を出していました。その後に「オイ、オマエ、腹痛くなったら責任取ってもらう」との口約束をしつつ、帰宅後、王将のサイトから苦情メールを送りました。
1週間経過しましたが、まだ一言も返事がありません(苦笑)
このような顧客対応にまつわることは、マーケティング上、たいへん重要なことです。
ところが、なぜかしら4Pには入っていないことを申し添えておきます。

インターネット・マーケティングということで、本を出したり、声を大きくして語られる方々の大半が、既存のマーケティングの教科書を疑うことなく、前提として採用されている場合がほとんどです。
そのような論者の言は、大半は現場ではとてもではないですが使える代物ではありません。
みなさん、本を読んで勉強しようと思われる方は、くれぐれも騙されないように注意してお読み下さい(^_^;)

では、4Pがダメなら、どのような切り口があるのでしょうか?
勿論、今後のお話の中で、結論的なことを申し上げます。

それを申し上げる前に、いくつかお話させていただかなければならない点があります。

来週はそのひとつ、「SWOT分析は使えない」をお話させていただきます。

【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。ネットビジネスとマーケティングのコンサル業。
住宅・住設・インテリアメーカーのマーケティング会社勤務を経て独立。

http://www.sakimoto.biz/
mailto:sakimoto@tokeidai.net
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2001/07/16)

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