「21世紀型マーケティング」(#009)破壊的イノベーションと組織的学習について
『日刊「WEBのツボ」 ~次世代WEBマーケティングを読む~』に掲載
http://www.soho-union.com/
【○】本日のお題 「21世紀型マーケティング」(#009) ━━
咲本@時計台ネット
▽ 破壊的イノベーションと組織的学習について
『イノベーションのジレンマ』という有名な本があります。(註1)
同書ではイノベーションを「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」に 分類しています。
前者はPentium3がPentium4に進化したり、MOが230MBまでの容量だったものが、ギガ バイトクラスまで1枚で対応出来るようになるようなイノベーションのことです。
それに対して破壊的イノベーションは、レコードからCDへとか、営業マンが活動する ことが当たり前だった証券業界に、突如として現れた営業マンゼロの松井証券もそれ に該当いたします。(註2)
持続的イノベーションに関しては、大企業がかなりスムーズにそこにシフトしていけ るわけで、新規にベンチャーが食い込むには、特に資金的な面で一般的には不利であ る場合が多いです。
逆に、破壊的イノベーションは、大企業の場合には、社内に存在する粗利率の基準か ら考えると割りに合わなかったり、利益額による資源配分を行おうとすれば積極的資 源投資が行われないこととなったり、市場規模がわからなかったり、そもそもどこに 市場があるのかがわからないままスタートしなければいけないケースもあるわけで、 このようなものに対して、社内的に投資していくことは通常はあり得ないはずなので す。大きな利益率と十分な市場規模が見えないまま、そこに参入しようと提案する大 企業所属の社員の方は、普通なら気でも狂ったのかと思われるのがオチなのでしょう。
ここにベンチャーや中小企業が食い込み、大化けする余地があるわけです。
しかも大企業が参入したいと思えるだけの市場が見えてきた頃には、その市場におい て、圧倒的優位なポジションを得ることが可能です。
ただし、中小企業の場合には、事業にどれだけの資源を投入するかというところで、 大企業と同じ罠に陥る可能性があります。
破壊的イノベーションは既存の社内に存在する価値基準・判断基準とは相容れないケ ースがほとんどですので、既存組織とは完全に分け、既存価値基準に当てはめずに取 り組める環境が必要となります。出来れば別会社にして、全く別の価値基準のもとに 組織づくりをする方が望ましいのでしょう。
また、破壊的イノベーションの道を突き進む際には、あっという間に倒産してしまっ た多くのネットベンチャーの事業計画書のように、「きれいな事業計画書」など書け るものではないことが多いのです。以前お話したSWOT分析など100%書きよう がありません。書けないものを無理矢理きれいに書くことで、わかったつもりになり 自滅したネットベンチャーのマネをしないように注意する必要があります。
経営者であればその点を十分に踏まえておかなければなりません。
だからといって経営計画を周到に準備することを否定しているのではありません。
むしろ、絶対に必要なものです。
更には、「小さな機会や小さな勝利にも前向きになれる小さな組織」によって臨むの が向いており、その取り組み方としては「市場は、試行錯誤の繰り返しのなかで形成 されていくものである」ことを良く認識しておくべきです。(註3)
戦略を決定論的に位置付けるほど失敗の確率は高くなり、例え失敗したとしても、そ の失敗から学び、組織として学習しながら更なる創発的戦略を生み出していくことが 出来る組織である必要があります。
そのように考えていきますと、もうこれは、破壊的イノベーションに取り組む組織以 外の既存中小企業・ベンチャーにも有効な、いやあるべき組織の姿であるといえない でしょうか。
では、決定論的な戦略に頼るのではなく、組織としての学習に重きを置くという立場 がどのようなことなのかを、もう少し考えてみましょう。
これは言い換えれば、組織のプロセスの部分を重視して戦略的に進めるということで もあります。組織のプロセスというのは一見目に見えないものです。
つまり、組織の中の暗黙知をいかに明示知化して組織として学習していけるのかとい うことに重点を置くということです。全ての暗黙知を明示知化することは不可能でし ょうが、そのような点もどれだけのことを暗黙知のまま共有出来るのかということで す。
このようなことを申し上げますと、またまたナレッジマネジメント屋さん達から、高 価なツールを購入しなければいけないのかとお思いの方がいらっしゃるかもしれませ ん。はっきり言って、そのようなものがなくても、いくらでも実践することは可能で す。逆にツールがあればうまくいくというというものではなく、どのような組織をつ くるのかという方向性が先行されるべきものです。
例えばひとつの成功事例として、日本ロシュのSSTプロジェクトが挙げられます。( 註4)
後々になってデータベースなどを導入されたとしても、当初はそのようなツールは何 も使われていません。
このプロジェクトによって、トップ営業マンの「個人知」を「組織知」に変えること で、大きな成果をあげています。
以上見てまいりましたように、ベンチャーから大企業に至るまで、突如として登場する破壊的イノベーションにどのような対応が出来る組織であるのか、また、市場がど こにあるのかさえわからない分野にどのような対応が出来るのか、それらに対しての 組織としての対応如何によって、光輝く成功企業がものの見事に凋落することも十分 あり得ることであり、逆にベンチャーにも十分なチャンスがあるということです。
まわりを見渡して、今は破壊的イノベーションなど存在していないと楽観するのでは なく、いつ登場するかもしれない状況にも的確な対応が出来るよう、組織的学習から 創発的戦略へというプロセスが機能する組織を目指していきたいものです。
マーケティングの戦略だけを考えていくだけでは、当然のことながら不十分であり、 時代の変化の激しければそうであるほど、マーケティング戦略自体も試行錯誤を重ね ながら模索するケースが増えてくるわけで、そのような対応が出来るということは、 組織が如何様であるべきかが問われるということなのです。
ではまた来週。
(註1) クレイトン・クリステンセン『増補改訂版イノベーションのジレンマ』(翔 泳社)…マイケル・ポーターのいるハーバード・ビジネススクールにこのような発言をする人がいることがとても不思議である。なぜなら、この視点をつきつめていけば ポーターとは相容れないものとなるでしょうから。

(註2) 大雑把に言えば、eコマースやネット上のサービスも破壊的イノベーションの 一種だと言うことは可能なのかもしれません。
でもここでは、松井証券のように大手企業と同じものを取り扱いつつも、営業マンを ゼロにしてネットでの売買に特化させ、そのことにより手数料を十分の一という低価 格を実現しているようなものをイメージしています。http://www.matsui.co.jp/
この戦略はどう考えましても「破壊的」ですよね。
現状では大手証券会社もネットでの売買に参入してはいますが、営業マンを抱えてい る以上は、この手数料の安さは到底実現出来ていません。
単なるeコマースということなら、大手企業も比較的参入しやすいわけで、この分野 で頑張っている小規模電子商店は、破壊的イノベーションというよりは、大手が手を 出しにくいニッチ戦略を取っていると考えた方が自然です。
機会があればこの「ニッチ」ということにもこだわってお話させていただきたく思っ ています。
(註3) 上掲書p.145
(註4) 山本藤光『「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす―日本ロシュのSSTプロジェクト』(プレジデント社) …日本ロシュの現場でのベタベタの実践とその成果が詳しく記述されています。

【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。マーケティングという言葉にとても違和感を持つマーケティング のコンサル屋。
住宅・住設・インテリアメーカー向けマーケティング会社勤務を経て独立。
今月8日に金沢で講演させていいただきました。
石川県庁は商店街の元気な商店主をターゲットにして「商業ベンチャー」なる言葉の 元、支援施策を積極的に打っておられます。
施策の内容として都会で行われているミニ版ではなく、このような特化型で行われて いることに関心いたしました。
自治体の支援施策って、何らかの分野に特化しつつ、その代わりにその分野では世界 中で最も濃い支援がなされており、思わず他府県の人達からもその施策を受けたいと お越しになるようなものが多数登場すれば面白いのになあと思っています。
http://www.sakimoto.biz/
mailto:sakimoto@tokeidai.net
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2001/11/26)
トラックバック URI : http://www.crafting.jp/blog/innovation_and_learning/trackback/
コメント (0) Trackbacks (0)








