「21世紀型マーケティング」(#010)「モジュール化の思想」と「最適化の思想」
『日刊「WEBのツボ」 ~次世代WEBマーケティングを読む~』に掲載
http://www.soho-union.com/
【○】本日のお題 「21世紀型マーケティング」(#010) ━━
咲本@時計台ネット
▽ 「モジュール化の思想」と「最適化の思想」
ご存じの方も多いでしょうが、「オープン・アーキテクチャ戦略」という興味深い論考を慶應大の國領二郎氏が展開されています。(註1)
この戦略の定義としては「本来複雑な機能を持つ製品やビジネスプロセスを、ある設計思想(アーキテクチャ)に基づいて独立性の高い単位(モジュール)に分解し、モジュール間を社会的に共有されたオープンなインターフェースでつなぐことによって汎用性を持たせ、多様な主体が発信する情報を結合させて価値の増大を図る企業戦略のこと」です。(註2)
なるほど、モジュール間のインターフェースがオープンであると、「独立した会社が開発した製品を次々と結合していける」ということであります。いわば「パズル方式」に対する「レゴ方式」とでも呼ぶべきものです。
また、元々は小さなベンチャーであっても、小さなモジュールに特化し高付加価値のものを市場に投入することで、「小さく立ち上げ、うまく当たって自社製品をデファクト・スタンダード化することに成功すると、世界中のシステムに不可欠なモジュールを提供する大企業に急速に成り上がる」可能性だってあり得ます。(註3)
インターネット時代としての流れとしては、確実にこの流れの方向にシフトしていっていることは間違いのないところです。
しかし、当然のことながら世の中オープン・アーキテクチャ戦略だけでうまくいくというものでもありません。
なぜなら、「この思想は1950年代以降日本の産業を繁栄に導いた、無駄を徹底的に省く最適化の思想と矛盾している」のです。(註4)
いわば、「大きな」デスクトップパソコンは、相互依存性の低い汎用性性質たるモジュールを組み合わせることによって、容易に作ることが出来る反面、「システム設計に余分な制約条件を課すことになり、資源の無駄遣いを発生させることにな」ります。これが「小型の」ノートパソコンとなると、資源の無駄を出す余裕がなくなり、相互依存性の高い、高度に最適化された製品を開発する必要性があります。
多少乱暴な整理ではありますが、前者は「モジュール化の思想」向き、後者は「最適化の思想」向きということとなります。
以前からの日本のお家芸、「小型化やエネルギー利用効率化などの技術が生きる」のは「モジュール化」ではなく「最適化」路線の方です。(註5)
モジュール化に適さない分野を敢えて狙うのは、ひとつの有効な戦略であり得ます。
しかし、ここでは「モジュール化」の方向に注目をしてみましょう。
ここで一番の問題となるのは、モジュールの内部やモジュール間の「ことば」(プロトコル)です。
モジュール間における問題としましては、例えば、ネットビジネスにおいてアグリゲーションモデルを取った場合、業界間をうまく取りまとめる「ことば」(プロトコル)を調整して、ユーザーに利便性の高いサービスを提供するようにしなければなりません。(註6)
モジュール内部の問題、つまり組織内部としての問題においては、社会的に共有の出来る「ことば」(プロトコル)を組織内部のベースとして構築する必要があります。
ただし、これだけでは明示化出来る知識の共有だけにとどまり、暗黙知の共有やクリエイティブ・イマジネーションの発現は起こり難いこととなります。
この一見相矛盾した「ことば」(プロトコル)と「暗黙知」の両立に組織としてどのように解決するかということは、大きな問題です。
この点については、私自身、うまく解決している具体的事例を把握していませんのであくまでも思弁的なものにとどまりますが、若干のヒントをお話いたします。
國領氏の論理展開上対立して見え、両者相容れないものだと思えるプロトコルと暗黙知は、氏が両者を「平面的」に対立させているが故にそのようにしか捉えられないのであると考えられます。
しかしこの両者を「立体的」に捉えた途端、矛盾なく相容れるものとなります。
つまり、立体の前面にはプロトコルがあり、反対の面に至る奥行のところには暗黙知が存在するということです。
更に立体のy軸には、企業の組織や戦略における具体的なものから概念的なものに至る事項を並べると、ヘンリー・ミンツバーグの提唱する「変革キューブ」となります。(註7)
このように考えることにより、「モジュール化の思想」と「最適化の思想」との良い面を共に備えた組織としての戦略への道が拓かれていきます。
國領氏では二項対立であったものが、本当はどちらも矛盾するものではなく、逆に企業は、この両面とも備えているべきであるとは言えないでしょうか?
日本企業の場合には、欧米の企業以上に「最適化の思想」には馴染みのある分、この点をおさえて実践していけば、有利であると言えなくもありません。
さてみなさんは平面的な戦略か、それとも立体的な戦略のどちらを志向されますか?
(註1) 國領二郎『オープン・アーキテクチャ戦略―ネットワーク時代の協働モデル』(ダイヤモンド社)

(註2) 同書p.21
(註3) 同書p.50
(註4) 同書p.176
(註5) 同書p.179
(註6) ドン・タブスコット他『bウェブ革命 ネットで勝つ5つの戦略』(インプレス)第3章を参照。
「アグリゲーション」とは、具体例としては「旅の窓口」を想定して下さい。
http://mytrip.net/
すなわち、旅行に行く方に対して、当初はホテル予約サービスを提供されていましたが、現在ではレンタカーサービス、航空券予約、ゴルフ場予約等々、顧客がこのサイトだけで「旅」にまつわる必要を満たせるサービスを展開しようとするビジネスモデルを指します。これをうまく行うには、多数の業界に独特な形で存在する「ことば」(プロトコル)をうまく取りまとめ、一つのものとして構築することが必要となります。

(註7) ヘンリー・ミンツバーグ『戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック』(東洋経済新報社)p.352-353
彼は同書で次のように述べています。
「最後に、このすべてのことが、キューブの表面のように明白で形式的なものから、後ろ側のようにもっと暗黙的で非形式的なものまである。たとえば戦略的ポジションはもっと計画的(形式的)であったりもっと創発的(非形式的)であったりする一方、人は形式的に教育を通じて変わったり、また非形式的な指導で変わることもある。
要するに、組織が真剣に変革に取り組むには、このキューブのすべてをカバーしなければならないということだ。戦略と組織、最も概念的から最も具体的まで、非形式的と形式的の両方、すべてを含むのである。」

【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。マーケティングという言葉にとても違和感を持つマーケティングのコンサル屋。
住宅・住設・インテリアメーカー向けマーケティング会社勤務を経て独立。
インターネット上のビジネスを行うにも、オープンネットワークという視点だけでは全くの片手落ちではないかと思います。
今回はそのことをわかっていただきたかったんですけど、ちょっと難しかったかな?
議論の元としたテクストが難解な國領二郎さんの論考なので、勘弁して下さいね~。
私の担当コラムは、今回のものが本年最後となります。
来年も気合いを入れて突っ込んだ議論を展開させていただくつもりです。
ちょっと早いですが、みなさま、来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
http://www.sakimoto.biz/
mailto:sakimoto@tokeidai.net
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2001/12/03)
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