「21世紀型商売戦略」(#003)暗黙知の経営(3)
『日刊「WEBのツボ」』に掲載
http://www.soho-union.com/
【○】本日のお題 「21世紀型商売戦略」(#003) ━━
咲本@時計台ネット
▽ 暗黙知の経営(3)
個人の感情の発露を大事にしたい。
いつの場合でも、大笑いをし、大泣きをし、激しく怒ることの出来る環境に自分自身を置いていたい。
なぜそんなに面白いのか?、なぜそんなに腹が立つのか?、なぜ。。。?
暗黙知の世界は、感情や感覚、説明の出来ないながら確信の持てる直観、雑多な情報の渦巻く世界を捨てずに、逆にそれらに深く潜入し、統合する力の求められる世界なのです。
論理的ではない世界にこそ、ビジネス上の課題を解決する重要なヒントが多数埋め込まれていると言っても良いかもしれません。
そういった意味では、例えば、職場内で決して「爆笑」の起こらない組織は、暗黙知を削ぎ落としているが故にそうなるのであって、組織としてはスタッフの力を十二分に引き出すことの出来ない最悪の組織であるとも言えます。
あなたの組織は大丈夫でしょうか?
暗黙知を解き放つこと。
それが個人としても、組織としての環境としても、最も重要な点です。
個人的=人格的(personal)であることが仕事そのものだと看破する、『インビジブル・マーケティング』の著者、ハリー・ベックウィスの要点は、ここにあります。
著者そのものは、参考文献にも出していませんが、暗黙知理論提唱者マイケル・ポラニー著『個人的知識』(Personal Knowlege:Towards a Post Critical Philosophy)の“personal”(=人格的)を意識していることが、私には伝わってきます。
ですから余談として、「Work is personal(仕事は、個人的なものだ)」と阪本氏は翻訳されていますが、ここは「個人的」と訳さずに、「人格的」または「個人的=人格的」とされた方が、実はしっくりくる部分ではあります。
個人の雑多な感情や直観などを含めた“personal”を「個人的」と直訳してしまえば、“independent”のニュアンスが強くなり、この場合には、著者が一番伝えたいところがピンボケしてしまいかねません。
全体的にはたいへん美しい翻訳ではありますが。
それはさておき、最近では、「ナレッジ・マネジメント」なる言葉が使われなくなりつつあり、「ナレッジ・イネーブリング」と言葉が変わってきています。
すなわち、知識とりわけ智慧を「マネジメント」することなど出来るわけなく、あくまでも智慧の「イネーブリング」(=実現可能性)として、それが発揮出来るようにするものとして捉えることしか出来ないということです。
「ナレッジ・マネジメント」の言葉を使って、各種ITツールを売り込もうとの作戦は、最早、見え見えの売りたいがための大嘘ということになっているのが現状です。
実際に、智慧を共有することは、「ナレッジ・マネジメント」論議で語られるような安易な話ではなく、とてもたいへんなことです。
でも、企業としての力をアップさせたいという認識を持てば、気にせざるを得ない大きな課題でもあります。
私の仕事場から道路を挟んで向かい側に、ローソンがあり、そちらにNさんなるバイトさんがお仕事をされています。
彼女の接客は、ハンパじゃなく訪問客の注目を浴びます。
そのひとつとして、腹からしっかり出た声が心地よい、キビキビしている、お釣りに手を添えたり、私が1回訪問しただけで袋詰めを希望しないことを把握していたり。。
店長さんに聞いてみたところ、やはりファンが多いらしい。
私自身も、彼女がバイトに入っていた時、雑誌の立ち読みだけで訪れただけのはずだったのに、声の通るキビキビとした接客が耳に入ってきて、思わず彼女の接客を受けてみたいと思い、買わなくても良いものをレジまで持っていった次第です。
このNさんの接客は、大手ファーストフード店を筆頭とする各種チェーン店で使われている分厚い接客用マニュアルでも表現することが出来ないたくさんの暗黙知を持ち合わされています。
このように優秀なアルバイトさんに出会ったお店は、とてもラッキーであり、売上にも多少は貢献することでしょう。
このNさんのいわば「名人芸」とでも言えるものを、彼女だけのスキルということに留めることなく、他のバイトさんにも移植出来ないだろうかというテーマが、まさにナレッジ・イネーブリングの大きなテーマとなります。
一言で申しますと、個人の「暗黙知」を「組織知」として共有するというテーマです。
私は昔々、自営業として毎日住宅街をまわる生花の訪問販売を行っていたことがあります。
ご察しいただけるかとは思いますが、飛び込みの訪問販売で商品を爆発的に売っていくことは、たいへん難しいことです。
当然、そのようなことは売る前からわかっていることでして、購買理由はともかくとして訪問するお宅に全て買っていただくためにはどうすれば良いか、悩みました。
結果的には、飛ぶように売ることが出来るようになったのですが、訪問するご家庭全て、第一声としての発言内容は、一軒ごとに違っていました。
これは暗黙知による直観ベースで訪問販売をしているわけだったのだと今になると思います。
「結果的に買っていただく」ということを実現するには、その時の天候・時間・家の雰囲気・インターンホン越しに聞こえる声の感じ等々によって、瞬間的にどうアプローチをすれば良いのかを判断するため、営業トークが千差万別とならざるを得ないのです。
それをマニュアルにすることなど、到底不可能です。
暗黙知の世界のことだからなのですが、やはりここの点がたいへん重要なポイントでもあり、雇っていたバイトさんにも、この暗黙知を会得してもらいたいと思い、伝授するべく、ほぼ毎日つきっきりに近い状態で私なりの暗黙知移植を目指した活動を続けました。
その取り組みの結果を申しますと、多少の成果は出ましたものの、仮に彼の販売スキルが100点満点中10点だったとすると、3ヶ月ほどかかって30点になった程度でした。
私の伝授の仕方が的を得たものであったかどうかも問題ではありますが、少なくとも暗黙知移植には、かなりの時間がかかることは間違いのないところだと思います。
日々、コツコツと努力し続けなければなりません。
これは、伝統工芸職人の師匠から弟子への技能伝授についてと、同じ様なものかもしれません。
説明のつかない直観やカラダが勝手に覚えている独特の感覚など、名人芸に結びつく技能を伝授するには、たいへんな時間を要します。
以上いろいろと見てまいりましたが、まとめてみますと、
1.個人が暗黙知を組織内で解き放つことの出来る環境を整備する。
その場合、企業文化や経営慣行、意志決定の流れ等々、経営の全てを見直し、適切な改革を行い続けることが必要。
2.知識経営とかナレッジ・イネーブリングなどが叫ばれる中、名人芸的な個人の暗黙知の移植こそ、実現が難しくも最大の課題。
1.の整備を基礎としつつ、粘り強く取り組み続けることが必要。
本コラム、暗黙知の経営は、今回でいったん終了させていただき、次回のテーマは、「アフォーダンスとマーケティング」と題して(仮題)お送りさせていただきます。
暗黙知の経営(1)~(3) 参考文献(順不同)
マイケル・ポラニー『個人的知識―脱批判哲学をめざして』(ハーベスト社)
マイケル・ポラニー『暗黙知の次元―言語から非言語へ』(紀伊国屋書店)
リチャード・ゲルウィック『マイケル・ポラニーの世界』(多賀出版)
福島真人『暗黙知の解剖―認知と社会のインターフェイス』(金子書房)

栗本慎一郎『意味と生命―暗黙知理論から生命の量子論へ』(青土社)
栗本慎一郎『教授のインテリジェントテニス教室』(角川書店)
野中郁次郎他『知識創造企業』(東洋経済新報社)

野中郁次郎他『ナレッジ・イネーブリング―知識創造企業への五つの実践』(東洋経済新報社)

山本藤光『「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす―日本ロシュのSSTプロジェクト』(プレジデント社)

ハリー・ベックウィス『インビジブル・マーケティング―「見えない商品=サービス」を売り込む四つの鍵』(ダイヤモンド社)

チャールズ・オライリー他『隠れた人材価値―高業績を続ける組織の秘密』(翔泳社)
ジェームズ・C・コリンズ他『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』(日経BP社)
ジェームズ・C・コリンズ他『ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則』(日経BP社)
高橋俊介『組織改革―創造的破壊の戦略 どうすれば本当の意味での成果主義が実現できるのか?』(東洋経済新報社)

田坂広志『なぜマネジメントが壁に突き当たるのか』(東洋経済新報社)
小関智弘『仕事が人をつくる』(岩波書店)
H・ミンツバーグ『戦略計画 創造的破壊の時代』(産能大学出版部)
【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。eビジネス、組織改革、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。
7月24日に京都ブライトンホテルでの私の講演にお越しいただきました方、ありがとうございました。200名ほどの方にご参加いただき、未だ続く大きな反響を頂戴いたしまして感謝致しております。
この場をお借り致しまして御礼申し上げます。
現在、ビジネス合コン参加希望女性陣を募集中です。
ご希望の方、直メールでも下さいね(^_^;)
http://www.sakimoto.biz/
mailto:sakimoto@tokeidai.net
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2002/08/21)
トラックバック URI : http://www.crafting.jp/blog/management_of_tacit_knowing3/trackback/
コメント (0) Trackbacks (0)













