2002/11/1 金曜日

ミミズの起業家精神(1)

Filed under: 認知論 — 咲本 @ 15:23:31

『日刊「WEBのツボ」』に掲載
http://www.soho-union.com/

【○】本日のお題 「21世紀型商売戦略」(#005)  ━━
咲本@時計台ネット
▼ ミミズの起業家精神(1)

企業にせよいかなる組織にせよ、イノベーションを行わず、起業家精神を発揮することなく、永続することはありえない。マネジメントと起業家精神がコインの裏表であることは、そもそもの初めからして認てかかるべきだった。マネジメントを知らない起業家が成功し続けることはありえない。イノベーションを知らない経営陣が永続することもありえない。企業にせよ他のいかなる組織にせよ、変化を当然とし、自ら変化を生み出さなければならない。(註1)

上記はドラッカーの30年来の一貫した発言でありますが、「起業家精神」は起業家のみならず、全ての組織にとって必要不可欠なものであると指摘されているわけです。そこで今回から数回にわたりまして「起業家精神」について考えていきましょう。

「企業にせよ他のいかなる組織にせよ」との表現にのっとりまして、ひとつの組織、それも4億年以上前から現在まで種として続いている「ミミズ」を観察していくことから、学んでいくことにいたしましょう(笑)

えっ?なぜミミズなの?と思われた方も多いかと思います。

でも生物から経営について学ぶという視点は、次のように言えるわけです。

経営というのは、企業や家に限らず、生きている系(生存系)が存続を目指して行うすべての営みであるとしよう。‥‥そうすると生存系の中には、生物の個体や種から、企業や家、さらには非営利組織や自治体までも含まれてくる。
存続を目指して工夫してきたノウハウの蓄積を考えてみると、三五億年あまりを激動する地球上の環境で生き抜いてきた生物こそ、何よりも経営の達人といってよいだろう。ここに生物から経営を学ぶ根拠がある。(註2)

ミミズについては、実は『種の起源』を著わしたダーウィンが40年以上にもわたって研究を続け、生涯を終える半年前に『ミミズの習性に関する観察と、ミミズの働きを通しての有機土壌の形成』、邦訳名:『ミミズと土』(平凡社)という著作を出版しています。

なぜ、かのダーウィンがこのミミズに多大な関心を持ち、とても長い年月をかけて研究を続けたのでしょうか?

いろいろな理由があるのですが、ミミズの観察を続ける中で、分化の低い動物でありながら、これから私がご紹介する事例のように、ミミズに見られる柔軟性に富む多様な行為を説明するには、ミミズに知能のようなものが存在するとしないと説明のつかない行為が見受けられたことに衝撃を受けたこともあるのでしょう。(註3)

ミミズには、眼や耳がありません。(註4)
進化しようとしても、肺やえらがないため(皮膚呼吸)、半径1.3センチ以上にはなりえません。(註5)

このような原始的とも思えるミミズが、ダーウィンを思わず唸らせてしまったであろう行為をご紹介いたしましょう。

1842年9月14日、33歳のダーウィンはロンドンの南東25キロのダウン村の新居に引越しをし、その後、生涯をこの家で暮らしました。(後に「ダウンハウス」と呼ばれ、現在は「ダーウィン博物館」となっています)

このまわりにある広大な牧草地に生息するミミズが、ダーウィンの研究対象となるのですが、このダウン村のミミズには、とても不可思議な行動が見て取れたのです。

それは、先程皮膚呼吸をしていると言ったことにかかわることなのですが、ミミズは絶えず皮膚を湿らせた状態にしていないと呼吸が出来なくなってしまうのです。
ダウン村のミミズは夜の寒気による体の乾燥を防ぐことが、生きていくためにどうしても必要なこととなる環境におかれています。

そのためミミズは、巣穴に葉を引き入れることで巣穴の穴を塞ぐということをするのです。

引き入れるのは、葉の先端側、葉柄、羽毛、小石、羊毛、小枝、ダーウィンが意図的に置いた二等辺三角形の紙など、様々です。

そこで

ミミズのあなにひきこまれていた木の葉を227枚集めてしらべてみた。そのうち181枚が先端からひきこまれていた。葉柄からひきこまれていたのは20枚、よこからひきこまれてごしゃぐしゃになっていたのが26枚だった。(註6)

葉の先端が細く、巣穴を塞ぐのには葉柄より向いているから、そのように先端から引き込んだ方が巣穴塞ぎをするには合理的です。
でも、ミミズには葉のどこが先端側なのかを判断するための視覚が存在しません。

周囲にある葉の各部を口で吸い付きながら、形を把握した上で、適切な形状をしたところから、引き込んでいるのでしょうか?

ところが、ミミズの口から吸い込んだものには、粘液の痕跡が付きます。
木の葉をいくら観察しても1箇所しか吸い付いた痕跡がありません。
眼の見えないミミズが、なぜこのような適切な葉の箇所を引き込む巣穴塞ぎが出来るのでしょうか?

ミミズは葉の先端から引き込むという条件反射のようなものを備えているのでしょうか?

ところが、ダーウィンの長男、ウィリアムの庭のミミズは、違った振る舞いをしました。

あいつの家の庭にはシャクナゲが植えてあるだろ。シャクナゲの葉は先より葉柄のほうが穴にひきこみやすい形をしている。ウィリアムはミミズのあなにひきこまれていたシャクナゲの葉を91枚見つけてくれた。じつに60枚が葉柄のほうからひきこまれていた。のこりの31枚は先から。(註7)

他にもミミズには34個の小石を積み上げて、巣穴を塞いだようなものがありました。
室内のポットで飼っていたミミズの場合、厳しい寒気ではなかったこともあってか、いい加減な巣穴塞ぎを多くのミミズが行っています。

ミミズの行為を説明するには、普通はパブロフの犬のような条件反射や本能で説明しようとするのが一般的なところだと思います。

ところが、このミミズに見られるまわりの環境によって柔軟性に富んだ、多種多様な行動は、本能や条件反射で説明出来る枠をはるかに越えています。
脳と呼べるものは存在しますが、頭のところに神経が固まっている小さな小さなものがある程度で、単に神経が一定の集まりをしている部署であり、脳ではないと言えるほどの小さなものです。

概念を持っているという説明でさえ、数千、数万もの「モノ」の形状を概念としてあらかじめ持っていると考えましても、それをどのように識別・認知しているのかというところで行き詰ってしまいます。

では、なぜこんなにも賢い振る舞いを行うことが出来るのでしょうか?

それを説明するためには、全く新たな「認知」についての理論が必要となります。

次回は、私達に新たな認知の説明を提供してくれる、生態心理学という分野を樹立し「アフォーダンス」という独特のものの捉え方を提唱するJ.J.ギブソンの理論をご紹介させていただくことにいたしましょう。
不可思議な振る舞いをするミミズ事例を、どのように説明出来るのかに焦点をあてたいと思います。

尚、本コラムの展開・ヒント・理論の理解につきましては、佐々木正人氏の著作を大いに参考とさせていただいております。(註8)

【註一覧】
(註1)P.F.ドラッカー『マネジメント【エッセンシャル版】』(ダイヤモンド社)p.298
マネジメント - 基本と原則  [エッセンシャル版]


(註2)西山賢一『文化生態学入門[複雑系の適応戦略]』(批評社)p.145
文化生態学入門―複雑系の適応戦略


(註3)佐々木正人『知性はどこに生まれるかーダーウィンとアフォーダンス』(講談社)p.54
知性はどこに生まれるか―ダーウィンとアフォーダンス


新妻昭夫(文)杉田比呂美(絵)『ダーウィンのミミズの研究』(福音館書店)p.26-27
ダーウィンのミミズの研究


(註4)ミミズについての詳細は、中村方子『ミミズのいる地球』(中央公論社)
ミミズのいる地球―大陸移動の生き証人


平易なものでは、小学生向けの絵本である新妻昭夫(文)杉田比呂美(絵)『ダーウィンのミミズの研究』(福音館書店)が参考になります。

(註5)本川達雄『ゾウの時間ネズミの時間』(中央公論社)p.106-107
ただし、水生のミミズの一部にはえらのあるものもある。
ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学


(註6)新妻昭夫(文)杉田比呂美(絵)『ダーウィンのミミズの研究』(福音館書店)p.27

(註7)Ibid.,p.27

(註8)佐々木正人『知性はどこに生まれるかーダーウィンとアフォーダンス』(講談社)

佐々木正人『知覚はおわらないーアフォーダンスへの招待』(青土社)
知覚はおわらない―アフォーダンスへの招待


佐々木正人・松野孝一郎・三嶋博之『複雑系の科学と現代思想 アフォーダンス』(青土社)
アフォーダンス


佐々木正人・三嶋博之(編訳)『アフォーダンスの構想 知覚研究の生態心理学的デザイン』(東京大学出版会)
アフォーダンスの構想―知覚研究の生態心理学的デザイン


加えて、本家本元の
J.J.ギブソン『生態学的視覚論ーヒトの知覚世界を探る』(サイエンス社)

咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。eビジネス、組織論、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。

今回のミミズ連載は、先日、大阪産業創造館で講演させていただいたネタを元に、再度練り直して書かせていただきます。
ミミズを事例にビジネス系のことを語るようなことは、今まであまりなされていないことなのかもしれません。
髪の毛が吹っ飛んでしまいそうになりながら、脳を振り絞って書いてまいります。
どうぞ今後の展開にご期待下さい!

相変わらず、匿名でプライベートメールアドレス、挨拶・自己紹介一切なしの批判メールが着続けます。
(まあ、Googleで「SWOT分析」で検索すると、私がトップに来るのですが、それがこの手法に対する批判であるので、むかつく人がいるだろうし、仕方のない部分はあるのでしょう。ちなみに「暗黙知」でもトップです。)

賛成前提の場合には、身分を語っていただけるのですが、批判をされるみなさんは、なぜ全員が身元を隠さないと批判出来ないのでしょうかねえ(笑)
今まで親切にも批判メールにも返信していましたが、今後は業務多忙ということもあり、名前、所属または大学・学部・回生、それと挨拶文、自己紹介文がないと無視させていただきます。知らない人に初めてメールを送って返事をもらいたい場合、普通、そんなことは常識です。(キッパリ)

最近は、地元京都以外、滋賀県・岐阜県・三重県・兵庫県とか、他府県でのコンサルが多くなってきています。
遠方になるほど、モバイル環境が必要になり、10年来のMacユーザーを改め、Windowsユーザーに変わったばかりです。
初心者であるが故に、とまどいの連続です(恥)

http://www.sakimoto.biz/
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2002/11/01)

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