ミミズの起業家精神(2)
『日刊「WEBのツボ」』に掲載
http://www.soho-union.com/
【○】本日のお題 「21世紀型商売戦略」(#006) ━━
咲本@時計台ネット
▽ ミミズの起業家精神(2)
前回のコラムではダーウィンをしてミミズには知能があるのではないかと言わせしめた不可思議な振る舞いをご紹介いたしました。
この振る舞いを説明出来うる、しかも我々人間の認知の仕組みをも説明出来るものとして、今回は「アフォーダンス」なる考え方をご紹介させていただきます。
この「アフォーダンス」、詳しく説明いたしますと本1冊分必要となりますので、私なりに強引に簡略化してご説明させていただきましょう。
「アフォーダンス」とは、米国の知覚心理学者(生態心理学者)J.J.ギブソンの提唱する造語です。
提供する,与えるなどの意味を持つ”afford”に由来し、”affordance”と名詞化されたものです。
「アフォーダンス」の意味を一言で申し上げますと、『「環境が動物に提供するもの、用意したり備えたりするもの」であり、それはぼくらを取り囲んでいるところに潜んでいる意味である。ぼくら動物の行為の「リソース(資源)」になることである。動物の行為はアフォーダンスを利用することで可能になり、アフォーダンスを利用することで進化してきた。』と言えます。(註1)
ではここで、事例として「座るアフォーダンス」について考えてみましょう。
繁華街、例えばJR大阪駅界隈で「座っている人」を観察いたしますと、様々な座り方が見受けられることでしょう。
噴水を取り巻く枠、百貨店内のベンチ、飲食店の椅子、歩道のガードレール、釣り用アイスボックス、ホテルのソファ‥‥。
この場合の前提条件として、まず座るためには私達や座るためのものを支える「地面」が必要です。
地面以外にも「面」を持つ「媒質」として水や空気も世の中に存在しますが、地面だけが私達や座るためのものを「支えるアフォーダンス」を提供してくれます。
「支えるアフォーダンス」には、急勾配ではなくどちらかというと水平に近い面であることや、支えるに十分な硬度、極端な凹凸がないことなどが必要となります。
地面や座るものには、それぞれが独特の「肌理(キメ)」(texture)を持っています。
タイル貼りの地面、大理石の地面、カーペット貼りの地面‥‥、
木製の椅子、ペイントされたベンチ‥‥、
それぞれある一定のパターンを持った肌理を持っており、その場に一定以上の明るさを発する「光源」の助けを受けて、それらの肌理の違い(レイアウト)によって、そこに地面の上にある物体を認識出来るというわけです。
また、肌理のパターンが粗くなったり細かくなったりすることで、当事者とその物体との距離がわかります。(註2)
さて、「座るアフォーダンス」ですが、座るためには自分の身長以上に存在する面は、通常は座ることには向いていません。
最近では地面に直接座るという事例が急増中ですが(笑)、通常は膝から腰までの間くらいの高さの面が妥当なところではないでしょうか。
更には、その物体の骨組みの硬度が求められます。
自分の体重の負荷で潰れてしまうものでは、座ることが出来ません。
その他には、尖っていたりするものでは座ることには向かず、ある程度の面があることが求められます。
ガードレールのようなものでも「座るアフォーダンス」を提供してくれますが、より向いているのは、大腿部の長さ前後の面であった方が良いでしょう。
このように私達は、環境から提供される「生態学的情報」から、「座るアフォーダンス」を得て、「座る」という行為を行うわけなのです。
一般的な言い方をしますと、「アフォーダンスを知覚することは、価値に満ちている生態学的対象を知覚する過程である。いかなる物質、いかなる面、いかなる配置も、だれかに対して有益な、あるいは有害なアフォーダンスを持っている」のです。(註3)
では、前回のコラムでご紹介させていただいたミミズの不可思議な振る舞いを、アフォーダンス理論でどのように説明出来るのでしょうか?
不可思議な前回の内容→ http://www.crafting.jp/blog/cognitive1/
このことについては、研究者の中で、未だ定説となるようなものが存在しない状態であることもさることながら、このミミズの振る舞い自体が、ダーウィンの住んでいたダウン村特有のミミズの振る舞いなので、余計に解明が難しいようなのです。
ここで佐々木正人氏は、ゼミ生からの意見を参考に仮説を出されます。
穴ふさぎ行為をするために葉をどの方向から巣穴に引き入れるかを判断するのに、「ミミズはテニスの選手がラケットを選ぶときのように、きっと葉を口でくわえて振っているのだろう」とのことです。(註4)
なるほど、ミミズが葉を銜えて振り回すことによって葉の形状を知覚し、「穴塞ぎのアフォーダンス」を得ているのだとすれば、ひどく納得のいく説明となり得ます。
今のところ、世の中に存在する理論では、アフォーダンス理論からしか説明の出来ない現象です。(ダイレクト・パーセプションという考え方)(註5)
ちなみに、「アフォーダンス」という新しいものの見方を手に入れますと、主観的であるとか客観的であるとかの主客二分法の陥穽に陥ることもなく、私が常々提唱している暗黙知理論による説明を、更に補完出来るものとなります。
また、以前のコラムでマーケティングの4Pや、SWOT分析が使えないと批判した根拠である、「要素還元主義」にも陥らない立場であります。(註6)
(このあたりの詳しい論議を個人的には展開したいことは山々なのですが、誌面の制約上プラス、難解になりすぎてしまいますので、この場での発言は、差し控えさせていただきます。)
今回は、アフォーダンス理論の概要を手短にご説明させていただきました。
次回はいよいよ、俗に「起業家精神」と言われているものについて、アフォーダンス理論をベースにして、おぼろげながらでも解明していく予定です。(註5)
【註一覧】
(註1)佐々木正人『知性はどこに生まれるかーダーウィンとアフォーダンス』(講談社)p.61-62
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(註2)J.J.ギブソン『生態学的視覚論ーヒトの知覚世界を探る』(サイエンス社)第I部第2章を参照
(註3)Ibid.,第II部第8章第5項
(註4)佐々木正人『知性はどこに生まれるかーダーウィンとアフォーダンス』(講談社)第4章を参照
(註5)この基本的発想は、10月21日に大阪産業創造館で講演させていただいた内容をベースに書かせていただいております。
(註6)以前のコラムでは下記をご参照下さい。
http://www.crafting.jp/blog/swot/
http://www.crafting.jp/blog/4p/
「要素還元主義」に陥る発想が、いかにダメなのかについて、最も明快なのは、アーサー・ケストラー『機械の中の幽霊』(筑摩書房)でしょう。
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(一度のコラムでの書ける内容は、所詮限られていますので、ご興味に応じて、参考書籍をお読みいただき、知識を補完して下さいませ。)
【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。eビジネス、組織論、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。
今回は、かなり強引かつ手短かにまとめてしまった傾向が強いです。
知り合いの学生さんに、元となるテキストを読んでビジネスにかかわるコメントをもらうことをお願いしたのですが、どうやら、かなり難解であるようなので、余計に、こんな短文でご理解いただけるのか、若干不安な気持ちです。
(書いた以上、今更手遅れですが‥‥)
今年の講演回数は、37回でした。
来年は48回以上の機会があれば嬉しいなあと思っています。(月当たり4回平均)
今回は続編を書くことが前提となっていましたのですが、新刊として『オルフェウス・プロセス』(角川書店)が登場し、この本で指揮者不在の室内管弦楽団のことについて、リーダーシップ論としてまとめられていることが、とても気になっています。
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以前、指揮者がいることを前提に、「オーケストラのブランド論」というコラムをこのメルマガに書いたからです。
http://www.crafting.jp/blog/orchestra_brand/
個人的には、オリジナリティのあるコラムとして、結構イケテるつもりであったので、早く前掲書を読んだ上で、私なりの考えをまとめたい気持ちでいます。
http://www.sakimoto.biz/
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(2002/12/09)









