2003/2/28 金曜日

ミミズの起業家精神(3)

Filed under: 認知論 — 咲本 @ 14:22:04

『日刊「WEBのツボ」』に掲載
http://www.soho-union.com/

【○】本日のお題 「21世紀型商売戦略」(#008)  ━━
咲本@時計台ネット
▽ ミミズの起業家精神(3)

いつもWEBのツボをご覧いただきありがとうございます。
前回のコラムで今回のものをお届けするはずでしたが、締切までに時間があまり取れなかったために他のお題でのコラムを書かせていただきました。
今回のコラムは前回からかなり時間が経過してしまいましたので、今までお話してきましたことの復習から始めていきます。

まずは、ミミズの穴塞ぎには知能があるのではないかとダーウィンに言わせしめた不可思議な振る舞いをご紹介いたしました。
この振る舞いを説明出来うる、しかも我々人間の認知の仕組みをも説明出来るものとして、「アフォーダンス」なる考え方をご紹介させていただきました。

「アフォーダンス」とは、提供する,与えるなどの意味を持つ”afford”に由来し、”affordance”と名詞化されたものです。

「アフォーダンス」の意味を一言で申し上げますと、

「環境が動物に提供するもの、用意したり備えたりするもの」であり、それはぼくらを取り囲んでいるところに潜んでいる意味である。ぼくら動物の行為の「リソース(資源)」になることである。動物の行為はアフォーダンスを利用することで可能になり、アフォーダンスを利用することで進化してきた。

と言えます。(註1)

アフォーダンスの視点からミミズの振る舞いを考えますと、ミミズが葉を銜えて振り回すことによって葉の形状を知覚し、「穴塞ぎのアフォーダンス」を得ているのかもしれないとの仮説をご紹介いたしました。

そのほか、JR大阪駅界隈で「座っている人」を観察する事例から、「支えるアフォーダンス」、「座るアフォーダンス」、「肌理(キメ)」 (texture)、肌理の違い(レイアウト)、などのご説明、そしてそのように環境から提供される「生態学的情報」から直接的に「座る」という行為に繋がるというアフォーダンス理論の説明の仕方を取り上げました。

本来であれば、アフォーダンス理論と起業家精神との関係を今回取り上げれば良いのでしょうが、事態はそんな単純なものでは済まないのです。
まず、私が常々取り上げています「暗黙知」理論とアフォーダンス理論との関係を明確にする必要があります。

でもどうやら、少なくとも国内研究者レベルでもこのテーマについて、書籍で書かれたものを目にすることは出来ない状況なのです。
それなら、研究者がまともには語っていないことであっても、自ら語っておきませんと、これ以上先のお話がしにくいのです。

で、思い切って発表させていただきます。

たまたまお読み下さった大学研究者のみなさん、お手柔らかに(笑)

まず、ミミズを例に取り上げるギブソニアン(註2)に対して、暗黙知理論側としても生物の事例をいくつかご紹介いたしましょう。

マイケル・ポランニーは、生物の独創性についてブッデンブロックとベーテの研究を例に挙げています。

昆虫、くも、むかで、水棲甲虫などは、その脚の一本ないし、どんな組合わせであれ何本かを切ってさえ、直ちに移動の仕方を適応する。ベーテは、これらの即興的な等能的調整は余りに多様なので、それらは前もって決定された解剖学的経路の活動に起因するものではあり得ないと論じている。(註3)

ちょうどダーウィンがミミズの振る舞いを観察する中で、本能というには多様な振る舞いであり、知能があるとしか考えられないと結論付けた事例と似ていませんか?

また、ラシュリーの研究を取り上げて、

迷路を学んでしまった鼠で神経欠如したものは、その学習に用いられた神経経路が切断されているにもかかわらず引続き迷路を通り抜けることができたのである。(註3)

これら生物学では「形態発生[形成]的調節(morphogenetic regulation)」として言及されていますが、ポランニーはこれを「等能的(equipotential)」であると言っています。

この等能性については有名人の事例も取り上げられ、

ルノワールは歳とともに関節炎のため不具になってしまった。彼の手足は役に立たなくなり、指は慢性的に痙攣して固まってしまった。だがルノワールはそれから先二○年間を死ぬまで描き続けたのであって、それは二の腕に絵筆を縛り付けてのことだった。こうして彼は膨大数の絵を生み出したが、これらは、それ以前に彼が描いたものと質およびスタイルにおいてほとんど見分けの付かないものであった。彼が指を用いて開発し習得した技能とヴィジョンはもはや指の中にはなかった。それは高度に抽象的で全く詳記不能の類の知識、および目的となっていたのだ--その目的は、不具となった彼の身体から、以前のパフォーマンスと等能的な一組の実行手段を呼び出すことができたのであった。(註3)

このように、等能性は原初的な生物から人間にも当てはまることであり、しかも重要なこととして、これら全てに「イマジネーション」が存在すると指摘されています。

ダーウィンがミミズにひどく拘りながらも、説得的な説明が出来なかったのは、ミミズに等能性と「イマジネーション」が存在するという視点がなかったためだと私は考えます。

ミミズの穴塞ぎ行為における等能性とイマジネーション。。。

この「イマジネーション」の能力が、暗黙知理論では進化の力にも繋がるひとつの力、「創発(emergence)」という概念に繋がって理論が拡がっていきます。

一方、アフォーダンス理論では、

このような考えは新奇であるかもしれないが、それは単に今まではっきりしたかたちで述べられなかったという意味において目新しいに過ぎない。‥(中略)‥すべてずっと以前から土地の測量技師や建設業者、環境デザイナーなどの実務家によっていわず語らずのうちに知られていることである。それは暗黙の(tacit)知識である(Polanyi,1966)。この記述がすぐれている理由は、動物の知覚や行動の研究、および環境がもたらすものによって規定される人間の研究、すなわち心理学にとって適切であるからである。

と説明されています。(ちなみに「暗黙の」の表現に傍点有り)(註4)

このようなギブソンの発言から、暗黙知理論のように、言語哲学、社会哲学、進化論、物理化学、生物学のような領域にも拡がる統合的理論への意志はあまり感じられず、あくまで生態学的視点を取り入れつつも、認知論または心理学という分野に拘った研究となっているのが最も大きな違いです。

ですので、今回のミミズのような事例と遭遇しますと、理論的拡がりの違いによって、暗黙知理論であれば、等能性とイマジネーションの視点から説明が出来ることでも、アフォーダンス理論の場合には、かなり苦戦をせざるを得ないという結果となります。

アフォーダンス理論は、確かに我々にとって新しいものの視方を提供してくれるものではあり、しかもアカデミックな分野では、久しぶりに登場した目新しい理論としていわばトレンディな理論として扱われるフシがあります。

双方の理論が主張しているのは、人間は五感によって得た刺激を脳で分析し、「間接的」に意味を構成していくという単純なものではないということです。
なぜなら、先にご紹介したような等能性についての事例を説明出来ないからです。

そこで、アフォーダンス理論では、環境から得られる「生態学的情報」と動物の「行為」が「直接的」に結び付く態様にとりわけ注目して理論的な展開がなされます。

一方の暗黙知理論は、もっと大きなシステムとして捉えられ、「発見」や「創発」に至る力の側面が強調されています。

アフォーダンス理論には、暗黙知理論が詳細に説明していない点に突っ込んで解明しようとしている点は確かに存在します。
その点についてはたいへん重要であるかと考えます。

でもどうやら、暗黙知理論における知覚についての議論を一部補完するものとして捉えるのが妥当でありそうです。

それはミミズの事例に見られました通りです。

今回のコラムで、暗黙知理論とアフォーダンス理論の関係は、おぼろげながらでもお解りいただけたのではないかと思います。

余談ではありますが、WEBであれマーケティングであれ経営であれ、そのベースというか背景と言えば良いのか、そういったところに理論的根拠を持っておきいたいとの強い気持ちがあるが故に、このようなコラムを敢えて展開させていただいているつもりです。

ベタベタに現場のことに臨みながらも、その背後に潜む普遍的なものへの視線を絶えず持っていたいと考えます。

次回こそは、今回明らかになったことを踏まえて、いよいよ「起業家精神」というものについて切り込んでいきたいと思います。

【註一覧】
(註1)佐々木正人『知性はどこに生まれるかーダーウィンとアフォーダンス』(講談社)p.61-62
知性はどこに生まれるか―ダーウィンとアフォーダンス


(註2)ギブソンのアフォーダンス理論研究者・信奉者をこのように呼ぶらしいです。

(註3)マイケル・ポラニー『個人的知識-脱批判哲学をめざして-』(ハーベスト社)p.320-321

(註4)J.J.ギブソン『生態学的視覚論ーヒトの知覚世界を探るー』(サイエンス社)p.24

【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。eビジネス、組織論、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。

2月25日は、横浜を拠点として全国的に御活躍であるコンサル屋さんと初めて京都で呑みました。
お互い酔った勢いでのトークを交わす結果となり、たいへん面白かったのですが、このような機会からも、今年はコンサルのお仕事の充実に努めたいと改めて感じました。(お蔭様で現在は、コンサル案件系は一応、充実しつつあります。)

3月7日は久しぶりに岐阜県で講演(Workshop風)を行います。
岐阜はいつも心地良いご対応をしていただける街で、今から楽しみです。

http://www.sakimoto.biz/
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2003/02/28)

Creative Commons Licenseこの作品は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
Get FirefoxIE等のレンダリングバグには対応していません。W3C標準仕様準拠のブラウザでご覧ください。