2003/4/30 水曜日

高台寺庭師に観るプロジェクト・マネジメント

Filed under: 経営戦略 — 咲本 @ 17:09:33

『ビジネスにマーケティング☆を走らせよう!』に掲載
http://www.mankai.biz/

「高台寺庭師に観るプロジェクト・マネジメント」

マーケティング・コンサルタント  咲本 勝巳

こんにちは!咲本です。
発行人であるにもかかわらず、今回号で初めてメインコラムを書きます。
これから月1度ペースで書いていく予定です。
今後ともよろしくお願い申し上げます!

▼高台寺春のライトアップを見学

今年3月4日、翌日から約2ヶ月にわたって開催される高台寺、春のライトアップの記者発表の席に、お知り合いのコネで特別に参加させていただきました。

高台寺とは、京都祇園にある有名なお寺でして、毎年春と秋に行われています。
ライトアップ開催期間は、ファンが多いこともあり、いつ行っても行列待ち状態となります。

今回の開催テーマは、「春宵(しゅんしょう)」。

地中から沸き出す生命力をほのかな光で表現しています。
注目すべきは、「古いものだけが好き」という方には嫌悪され、アート好きな方なら、「素晴らしいインスタレーションに遭遇して感動した」とでも言わせしめるものであることなんです。

ちなみに、現在開催中のライトアップの写真↓をご覧下さい。
http://www.kodaiji.com/kongetu/0303/index.htm (その後not foundとなったので、参考になるのかどうかはともかくとしてコラム執筆から3年後の事例写真をご覧ください↓)

http://sakimoto-060319kodaiji.buzznet.jp/

どのようなご感想をお持ちになりましたか?

高台寺としては、このイベント成功イメージは、「骸骨を見た」ような気持ちの悪い感想を持った方と、感動した方とが半々に分かれることを目指されているらしいのです。
つまりは、「芸術」を提供しているわけですので、岡本太郎『今日の芸術』を引用するまでもなく、「不快感」も含めて観た方の魂を揺さぶるだけのものを提供したいということです。

このようなことを趣旨として開催し続けることが出来るのには、高台寺独特の理由があります。

▼プロジェクトリーダー、公認庭師北山さんという存在

このライトアップ総合プロデューサーは、高台寺公認庭師の北山さんという方です。見学時には、この北山さんから直接お話をお伺いする機会も得ました。

通常のライトアップですと、照明デザイナーに依頼して、格好よく光を当ててもらえば話は済むのですが、高台寺はライトアップを始めた当初から、北山さんに「一任」してきています。

つまりは、北山さんが「プロジェクトリーダー」として、この「事業」の責任者として、ずっと取組んで来ていらっしゃるわけです。

由緒ある有名な寺院の公認庭師というのも、名誉はあるのでしょうが、高いクオリティが求められるわけでして、それに加えて、ライトアップもということですと、当初は経験のなかった照明について自らプロデュースしなければならないという重圧もあり、ご自身のプライドやスキルを見つめ直しながら、大変な覚悟があったのではないかと想像してしまいます。

▼寛容でクリーン、前向きなお寺

高台寺の経営?の仕方は、通常の寺院とは違った点が見受けられます。

  1. 収入源は拝観料がメインで、檀家や企業からの寄付を一切拒否している。 →だから、利権を求める人達によって、シガラミだらけになることがない。
  2. ライトアップについては庭師の北山さんに丸投げして、一切口出ししない。 →完成して初めてどんなライトアップなのかを寺側が知る。今回のライトアップも僧侶の方々は、あまり気に入ってないのにもかかわらず、北山さんの美意識を信用しているので、それ対してとやかく言わない。
  3. やったことのないことにも、積極的にチャレンジする精神を持っている。 →例えば、ライトアップ以外にも、英語版としてFlashを駆使した過激なWebサイトを立ち上げている。寺院としては珍しい試み。http://www.do-not-zzz.com/

▼北山庭師のプロジェクト・マネジメント

このような、ある意味では民間企業のような柔軟性を持つお寺に一任されて始まったライトアップ・プロジェクトとは、どのようなものだったのでしょうか?

  1. まず北山さんは、照明のこと、枯山水のこと、特徴的なオブジェ群など、それら全てにわたって高いスキルを持たれている。照明だけを扱う通常の照明デザイナーとは明らかに違う。
  2. 北山さんの趣旨・哲学が明確かつ深いものであり、それを関係者に対して情熱的に語り理解してもらおうという方である。
  3. 金儲けを第一目的として近寄ってくる人間を受け入れず、北山さんの趣旨・哲学に深く感銘した人間だけをプロジェクトに集める。 →高台寺としても、企業からの寄付を受け付けないためにシガラミがない。
  4. そのために、金儲け主義の会社が近寄ってきても、お金目的だけではどう考えても割りに合わないと思ってしまう無理難題を並べ立て、それらを排除する。 →逆に、お金儲け第一というよりも、北山さんの趣旨・哲学に賛同している会社であれば、それは無理難題とは受け取られず、「面白そう」と受け取られる。
  5. 北山さんの趣旨・哲学を関係者全員が深く理解しているので、メンバーからの提案も的を得たものが多く、試行錯誤していっても、思わぬ素敵な発見が出易い。
  6. 高台寺からのゴールの設定は、イベント開催前までに完成させるということだけで、企画内容がこれで良いのかどうか寺側にお伺いを立てる必要がない。

▼プロジェクト・リーダーたるには?

こうして、今回は中野さんという陶芸家に球形の焼き物約800個を作ってもらい、それをランダムに配置し、内、100数十個には電球を入れ込んだものが作られました。

この電球のどれを光らせその際には庭に当てるライトをどのようにするのかというパターン10数通りをコンピュータで制御、その照明パターンの変化によって、まるでマグマのような色のほのかな光が沸き出してくる表現が出来上がりました。

私が思うに、プロジェクトのリーダーたるには、北山さんのようなプロとしてのスキルを持ちつつ、哲学をも併せ持ち、それを情熱的に語っていくことで共感してもらえる人間であるべきかと考えます。

どうしても共感出来ない人間は、プロジェクトから外してしまい、哲学を同じくする者同士が組むことで試行錯誤する場合や、不確定要素の多い事柄に取組む際にも、ブレが少なくなります。

哲学を共有しているという意味では、いちいち指示を待つ必要がなくなるでしょうから、上司からの指示待ち人間という存在もなくなります。

また、企業側としてもそのような人間をプロジェクト・リーダーとして十分な権限と責任を持たせることが必要です。

いちいちお伺いや細かい報告をしなければならないということでは、リーダーが十分な力を発揮するための阻害要因となるかと思われます。阻害要因というか、そんなことをやらなければならない方なら、リーダー不適格というべきかもしれません。

もし企業としての元気力という表現がありうるとすれば、様々なプロジェクトについて「リーダーとして適任」といえる人材がどれだけいるのか、これも一つの指標となるようにも思えます。

以上、ちょっと変わったお寺の、ちょっと変わった庭師を事例にプロジェクト・マネジメントについて考えてきました。

この日本で唯一の過激なライトアップは、5月5日まで観ることが出来ます。

もしご興味をお持ちいただけたようでしたら、GWにでも現物をご覧になってみてはいかがでしょうか。

■プロフィール

咲本 勝巳(さきもと かつみ)

eビジネス、組織論、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。
関西SOHOデジタルコンテンツ事業協同組合 理事
関西ベンチャー学会 理事
私についてご興味のある方は硝子張り公開→ http://www.sakimoto.biz/
(2003/04/30)

2003/4/7 月曜日

ミミズの起業家精神(4)

Filed under: 認知論 — 咲本 @ 13:46:37

『日刊「WEBのツボ」』に掲載
http://www.soho-union.com/

【○】本日のお題 「21世紀型商売戦略」(#009)  ━━
咲本@時計台ネット
▽ ミミズの起業家精神(4)

みなさん、こんにちは!この奇妙なお題での連載も今回で4回目となりました。
実はこのコラムのお題は今回が最終ではなく、まだ続きます(笑)
もうしばらくお付き合い下さいませ。

さて、「起業家精神」とは”entrepreneurship”の翻訳語でありますが、まずはこの訳語について一橋大学、米倉氏の考えをご紹介するところから始めましょう。

「Innovation」を「革新」ではなく「創新」と訳したほうが適切であるように、「Entrepreneurship」も「企業家精神」ではなく「企業家能力」という訳語を当てるべきだった。なぜなら、企業家とは精神論や根性論で語るべきものでもなければ、持って生まれた才能のみに左右されるものでもないからだ。アントルプルヌアシップとはイノベーションを遂行する能力であり、これは勉強して身につけることができるのである。(註1)

なるほど、「起業家は変化を当然かつ健全なものとする。彼ら自身は、それらの変化を引き起こさないかもしれない。しかし、変化を探し、変化に対応し、変化を機会として活用する。これが、起業家および起業家精神の定義である。」とのドラッカーの定義から考えてみましても、「精神」というより「能力」のことであるとの指摘は的を得ていると言えるでしょう。(註2)

しかし、勉強して身につけることが出来るとの考えには疑問を感じざるを得ません。

なぜなら、米倉氏は「勉強の中味」としてポーターの「5-forces Model」を挙げていたりするからです。(註3)
これは、私が常々批判の矛先を向けるSWOT的発想を推奨するのと同じ立場です。
今回は私以外の方の発言を引用して批判しておきましょう(笑)

しかし私は、実は近年まで、つねづね、強みと弱みをワンセットに語るのはナンセンスだと思っていた。市販の履歴書の長所と短所の記載欄を見るたびに、そう思っていた。
実際に存在するのは、強みを産みだす特徴なのではないか。特徴とは、ほかとはちがう点ということだ。その特異点をポジティブに捉えれば強みとなるし、ネガティブに捉えると弱みになる。
企業はゴーイング・コンサーン、つまり人は死んでも企業は生きつづけるという考え方が原則である。サバイバルしつづけるためには、自社の強みを徹底的に活かしつづけることが肝要だ。そこに必要なのは、ポジティブな発想であって、ネガティブな発想が入り込む余地はない。(中略)
だから、強みを考えるのはよいが、わざわざ弱みを考える必要などない。そんなことを考える暇があったら、戦略立案と付随するリスクの洗い出しに、企業はもてる力をすべて傾注すべきだ。(註4)

ドラッカーから言わせますと「イノベーションを受け入れ、変化を脅威ではなく機会とみなす組織をつくりあげる必要がある」となります。(註5)

ポーターの5-forces Modelは、変化の少ない業界のトップ企業が自社を説明するのには向いているのでしょうが、変化を機会として捉える起業家精神を持った立場の者に何ら提供してくれるものはないと言っておきましょう。

では、勉強だけではわからないかもしれない起業家精神とはどんなものなのでしょうか?

これについて、リタ・マグレイスとイアン・マクミランは「起業家的マインドセット」の定義として五つの特徴を挙げています。(註6)

  1. プロ起業家は、新しいビジネスチャンスの探索に情熱を燃やす。
  2. プロ起業家は、ビジネスチャンスを厳格な起業律に基づいて追求する。
  3. プロ起業家は、手の内にあるビジネスチャンスすべてを追求して自分や会社の体力を消耗させることは避け、最善のビジネスチャンスのみを追求する。
  4. プロ起業家は、実行を重視する。特に、状況適応型の実行を重視する。
  5. プロ起業家は、関係者全員のエネルギーを巻き込むことがうまい。

少なくともこれらは本を読んで勉強するということで身に付くものではありません。
勉強して参考になりますのは、起業家的思考法についてです。
米倉氏の本からはそれが得られるのかどうかは疑問でありますが、リタ・マグレイス他の上述の著作は、そういった点では参考になる面があります。

さて、ミミズについての一連のお話と起業家精神とがどう繋がってくるのかについてやっとお話する準備が整ってきました。

実は、ミミズについてのお話は起業家的思考法と関係があるのです。

ここまでの道のりは長かったですが(笑)、次回、アフォーダンス理論や暗黙知理論から導き出せる起業家的思考法についてお話させていただきます。乞うご期待!!

【註一覧】
(註1)米倉誠一郎『企業家の条件』(ダイヤモンド社)p.92
企業家の条件―イノベーション創出のための必修講義


(註2)P.F.ドラッカー『[新訳]イノベーションと起業家精神(上)』(ダイヤモンド社)p.40
新訳 イノベーションと起業家精神〈上〉その原理と方法


(註3)米倉誠一郎『企業家の条件』p.110~113
5-forces Modelがどんなものであるかは、ポーター『新訂 競争の戦略』(ダイヤモンド社)をご参照下さい。
競争の戦略


(註4)後藤英夫『株式公開・情報開示のための実践インベスター・リレーションズ』(英治出版)p.118

(註5)P.F.ドラッカー『[新訳]イノベーションと起業家精神(下)』(ダイヤモンド社)p.13
「新訳」イノベーションと起業家精神〈下〉その原理と方法


(註6)リタ・マグレイス/イアン・マクミラン『アントレプレナーの戦略思考技術』(ダイヤモンド社)p.3~4
アントレプレナーの戦略思考技術―不確実性をビジネスチャンスに変える

【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。eビジネス、組織論、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。

ちょっと宣伝させていただきます。
このメルマガとは別に、メルマガを創刊することになりました。
村上龍が発行するJapan Mail Mediaのマーケティング版をイメージしたものです。
よって発行者たる私はあまり書きません(笑)
よろしかったら、下記よりご購読手続きよろしくお願いいたします。
http://www.mankai.biz/

悲しい戦争が続いています。
NHK大河テレビ「武蔵」で言うところの「修羅の道」です。
例え敵の大将が無抵抗の子供であっても、平気でぶった切るしかない世界です。
こんな問題解決方法しか考えられないことに遺憾の意を表します。

http://www.sakimoto.biz/
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2003/04/07)

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