2003/5/28 水曜日

染工場が行ったドメインの再定義

Filed under: マーケティング — 咲本 @ 12:00:51

『ビジネスにマーケティング☆を走らせよう!』に掲載
http://www.mankai.biz/

「染工場が行ったドメインの再定義」

マーケティング・コンサルタント  咲本 勝巳

こんにちは!咲本です。
今回は京都の染工場に行って見学してきたことを元に、この会社が行いましたドメイン(事業領域)の再定義についてお話させていただきます。

▼低迷を続ける京友禅

さて、着物の染物屋さんとお聞きになって、染物屋さんはあくまでも染物屋さんであって、あくまでも反物を染めるのが仕事ではないの?とお思いになられませんか?

今回ご紹介させていただく京都の染工場、(株)亀田富染工場も、大正8年創業以来1994年まで、ずっと京友禅の染物屋さんとして仕事を続けて来られました。

ところがご存知の通り、京都の呉服業界市場が大きく縮小してきています。
その上、着物の完成に至るまで、多くの工程を経るが故に、1社が倒産したことによる連鎖倒産も見受けられます。

このままいくら真面目に仕事を頑張ったとしても、ジリ貧になっていくばかりであることに危機感を持って然るべき状況となっています。

▼着物の染物屋からの脱却

では、この染物屋さんはどのような打開策を講じられたのでしょうか?

最も自然に考えやすいのは、呉服の需要が落ち込んでいるのなら、洋服をターゲットにすれば良いのではないかと。
で、実際にそのようにシフトされました。

着物用ではなく洋服用に使う広い幅の生地、いわゆる「広巾」を染めることが出来るように、工場の設備を変えられ、職人さん達を広巾の染物屋さんに行って勉強してもらうように手を打たれました。

伝統的な染物屋さんなら、染のノウハウを決して他社には教えない閉鎖的な世界であるらしいのですが、広巾の染を手掛ける会社さんは、正統派?ではない新しい世界にチャレンジしている会社であるためなのか、そのノウハウについてもオープンな会社が多いとのことで、自社職人さん達を快く受け入れて下さったとのことでした。

このようにして、アパレルテキスタイルプリントという新たなドメインへとシフトされたのでした。

▼アロハシャツとの出会い

洋服の生地へとシフトはしたものの、以前と同様あくまでも製造業として、一般消費者とは遠い「川上」で事業を展開していくことに変わりはありません。

以前から、「川下」で消費者と直接やり取りしたいとの強い意向を持たれていたある時、アロハシャツの起源にまつわる話を耳にされました。

なんとアロハシャツは、ハワイの日系移民が、当時その貧しさの故、持っていた着物をほどいてシャツに仕立て直したのが由来だとのことなんです。
そう思って眺めてみると、今やヴィンテージものとなっているアロハシャツとかは、自分達が昭和初期の図案ストックとして所持しているものと似た柄があるではないか!

そうだ!これだ!とひらめかれました。

自社所蔵の図案ストックは数千点にも達している。
それを使って広巾にプリントすれば、アロハシャツが作れる。
ヴィンテージものと評価される古い図案も豊富。
シャツにまで仕立て上げれば、直販も可能。
その方法としてショップ展開、展示会、オンラインショップ、海外輸出・・・

おお!これはこれは!面白そう・・・

▼パゴンショップの誕生

このような経緯で、京友禅の図案を現代にアロハシャツで蘇らせた自社ブランドPagong(パゴン)が登場しました。

ちなみにPagongとは、うっかり忘れてしまいましたが、どこか南の国の言葉で、「亀」の意味。
「亀田」の「亀」、そのまんまやん(笑)

たいへん手のかかる染め工程を経たシルク100%のアロハシャツですが、基本的に直販で行うということで、通常のもので18,000円。
う~む。安い。

現在は、染工場前に作った店舗と、期間限定での各地で行われる展示会。それとネットショップ。

売る仕組みとしては、まだまだこれからの感が否めないけれど、商品が素晴らしいだけに、今後の成り行きがとても楽しみです。
思わず応援したい気になってしまいます。

▼ドメインを見つめ直すこととは?

今となれば、社長は「もう二度と着物には手を付けない」と言い切っていらっしゃいます。

でも、染物屋として着物から洋服へのドメインのシフトということだけでは、あり得る話だとしか思いません。

この会社の特筆すべき点は、アロハシャツの起源と巡り合い、更には、倉庫に過去の遺物として残っていたそのままではゴミ同然でしかなかったであろう古い図案のストックを大量に所持していることが、アロハシャツのプリントとしての再利用を考えた時に、大きな強みとなることに気付かれたところにあります。

過去からの多くのストックを持った伝統産業系企業が、特に京都にはたくさん存在します。
このような企業の中で、ドメインの見直しを迫られているケースはたいへん多いのです。

ところが、安易なドメインの見直しによって、例えば、西陣織メーカーが、土産物屋に並ぶ決してセンスの良さを感じさせてくれないネクタイを製造することしか出来ないような企業が多いことも事実です。

ドメインを見つめ直すということは、ドラッカー流に言えば、自分自身と自社とを常に見つめ直し、徹底的に強みを考えることが必要です。
大抵の場合、強みだと思っている事柄は、本当の強みではないことが多いです。

そのような隠されたヒントを見逃さない認知力が必要となります。

ドメインを見つめ直すということは、決して椅子の上だけで考えることではないということです。
そんな時間を少しは、散歩したり、アートに触れたり、百貨店をブラブラしてみたりするのに使うようにしていけば、些細なことが思わぬヒントとなる場合もあるというものです。

価値を創出する事業を具体化するということは、決して簡単に実現出来ることではありません。

でも、企業のストックをうまく活用する方向性を発見することが出来ますと、今回ご紹介したような展開も可能となるのです。

(参考)
Pagong Shop http://www.pagong.jp/

(株)亀田富染工場 http://www.joho-kyoto.or.jp/%7Epattern/

■プロフィール
咲本 勝巳(さきもと かつみ)

eビジネス、組織論、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。
関西SOHOデジタルコンテンツ事業協同組合 理事
関西ベンチャー学会 理事

6月18日に京都商工会議所で講演します。関西方面の方お越し下さいね!
http://www.kyo.or.jp/nouritsu/seminar/0513atara.html

私についてご興味のある方は硝子張り公開→ http://www.sakimoto.biz/
(2003/05/28)

2003/5/13 火曜日

ミミズの起業家精神(5)

Filed under: 認知論 — 咲本 @ 13:26:03

『日刊「WEBのツボ」』に掲載
http://www.soho-union.com/

【○】本日のお題 「21世紀型商売戦略」(#010)  ━━
咲本@時計台ネット
▽ ミミズの起業家精神(5)

みなさん、こんにちは!咲本です。

前回のコラムでは、起業家精神とはどのようなものであるのか、その定義的なところを大雑把に確認することをいたしました。
そこで今回は、起業家精神にのっとった起業家的思考法とは、暗黙知理論などから言えばどういうことになるのか見ていきましょう。

さて、科学において自然法則を手に入れるためには、いくつかの要因が存在するとポラニーは言っています。
この自然法則を手に入れる要因を、イノベーションを生み出す要因に置き換えますと、起業家的思考法がどのようなものなのかの一端が見えてきます。

ではまず、自然法則を手に入れるための要因を2つご紹介いたしましょう。

第一の要因は、正しく推測する技芸(アート)である。ここでポラニーは、ふつう「仮説」という名で知られているもののことを指しているのだが、彼が解明するのは、良い仮説というものは創造的な行為の結果であって、規則の遵守というよりは技芸に近いものある、という点である。仮説ないし推測においてはデータの中に、知ることが可能なある現実が存在していると仮定され、ほとんど無限の可能性の中から、最も尤もらしい説明が選び出される。このようにして、一組の情報が認識可能な状態にもたらされるのである。

自然法則を発見するに必要な第二の要因は、未知のものを見る技能(スキル)である。(中略)科学者の優位は、与えられたパターンの中に示唆されている現実はどのようなものかを推測する技能(スキル)──これは、訓練と範例により得られる──にある。科学者の優れているのは、隠されているか、あるいは初めはせいぜいぼんやりと知覚されるにすぎない現実に関する手掛かりを認識し統合する能力である。

ポラニーの指し示すのは、既知の現象への依拠により、以前には未知だった現実のパターンを直観することが可能になる仕方である。この点で科学的発見は、芸術(アート)の作業を導くヴィジョンに近縁のものである。「この手続き(過程)は、芸術(アート)作品の創造に類似する。これは、最終的全体像 (final whole)により確固として導かれるものである──といっても、その全体像は、ただ、まだ発見されていないその個別的な諸細目(パティキュラーズ)により表現されてはじめて確定的に把握され得るにすぎないのだが。‥‥」大発見の歴史というのはそうしたものであった。(註1)

つまり、諸細目を手掛かりにして最終的全体像に至る芸術作品の創造に類似した過程があり、そこにはスーパーコンピュータでの解析でも膨大な時間を要することでも、短時間で発見することが可能な「正しく推測する技芸(アート)」の存在と「未知のものを見る技能(スキル)」の存在とがあるのです。

これはいわば、起業家的思考法の「縦軸」に連なるものであると言えます。

縦軸たる暗黙知理論の詳しい内容につきましては、折に触れて書き続けてきていることですので、以前投稿させていただいたものをご参照下さい。

では、起業家的思考法の「横軸」があるとすれば、それはどういったものなのでしょうか?

起業家的思考法を考える場合、縦軸は一定だとしましても、起業家にも様々なタイプがあるという意味で、横軸は人によって拠って立つところが違っていても当然だと思われます。

その意味でカナダの経営学者、ミンツバーグが興味深い仮説を発表していますので、ご紹介させていただきましょう。(註2)

それは「リーダーシップのトライアングル」という仮説です。

三角形の3つの要素とは、アート、クラフト、サイエンスとなります。
アートとは直感的な能力、サイエンスとはMBAで行われているような事柄、そしてクラフトとは、匠の技術です。

クラフトの要素がイメージしにくいかもしれませんので補足いたしますと、陶芸家がロクロをまわしながら、何度も作る中で自分スタイルを作っていくまでには多様な作品を作るようなことをしつつも、そうこうしているうちに、あるスタイルを作り上げていく、それに飽きてきた頃には、また多様な作品を自らの指先の感覚で作っていくようなものをイメージして下さい。

そして、組織を成功に導くリーダーには、これらのどれか「2つ」を兼ね備えているとのことです。
例えば、松下幸之助、盛田昭夫はアートとクラフト、ジャック・ウェルチはアートとサイエンスという風に。

これはそのまま起業家的思考法の違いとも言えるかと考えます。

そのように考えますと、横軸には「リーダーシップのトライアングル」があり、そのどれか2つを兼ね備えたポジションで、縦軸に「暗黙知理論」を据え、上面に形式知、上面以下底面に至るまでのところに暗黙知があるという三角柱の形をしたモデルが出来上がります。

ミンツバーグは、三角形の面で図解していますが、別途「マネジメントとは、形式知のみならず、少なくとも同程度の暗黙知に根差しています。この暗黙知の大部分は体系化したり、形式化したりできない類のものです。また、言葉や文字(明示的)で学ぶことと身体や経験(暗示的)で学ぶことはまったく次元が異なります。ですから、体系的なプログラムというだけでは、マネジメント能力の開発はとうてい無理なのです。」とMBAプログラムを批判しつつ、暗黙知への眼差しを持っているように受け取れますので、あながち「起業家的思考法における三角柱モデル」を作っても反対はしないことでしょう(笑)

では、アフォーダンス理論とかミミズはどこに行ったの?となりますが、これは次回以降に改めさせていただきます。

ただし、ひょっとしてこのメルマガをリニューアルかもしれず、それと共にこの連載はいったん中止して、別のお題で書き始めることになるかもしれません。
そのあたり、よろしくお願いいたします。

【註一覧】
(註1)以上の引用は全て、リチャード・ゲルウィック『マイケル・ポラニーの世界』第II章

(註2)以下の引用は全て、ヘンリー・ミンツバーグ[特別インタビュー]「アングロサクソン経営を超えて」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2003年1月号

【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。eビジネス、組織論、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。

自前のメルマガを創刊して早1ヶ月。
こちらのメルマガは、「WEBのツボ!」の私のコラムとは雰囲気が違い、現場主義的なコラムを書いております。
よろしかったら、こちらの方もご購読よろしくお願いいたします。
http://www.mankai.biz/

6月18日(水)に京都商工会議所で講演を行います。
私のベタベタコテコテのキャラクターをお楽しみになりたい方は、下記URLよりお願いいたします(笑)
http://www.kyo.or.jp/nouritsu/seminar/0513atara.html

http://www.sakimoto.biz/
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2003/05/13)

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