染工場が行ったドメインの再定義
『ビジネスにマーケティング☆を走らせよう!』に掲載
http://www.mankai.biz/
「染工場が行ったドメインの再定義」
マーケティング・コンサルタント 咲本 勝巳
こんにちは!咲本です。
今回は京都の染工場に行って見学してきたことを元に、この会社が行いましたドメイン(事業領域)の再定義についてお話させていただきます。
▼低迷を続ける京友禅
さて、着物の染物屋さんとお聞きになって、染物屋さんはあくまでも染物屋さんであって、あくまでも反物を染めるのが仕事ではないの?とお思いになられませんか?
今回ご紹介させていただく京都の染工場、(株)亀田富染工場も、大正8年創業以来1994年まで、ずっと京友禅の染物屋さんとして仕事を続けて来られました。
ところがご存知の通り、京都の呉服業界市場が大きく縮小してきています。
その上、着物の完成に至るまで、多くの工程を経るが故に、1社が倒産したことによる連鎖倒産も見受けられます。
このままいくら真面目に仕事を頑張ったとしても、ジリ貧になっていくばかりであることに危機感を持って然るべき状況となっています。
▼着物の染物屋からの脱却
では、この染物屋さんはどのような打開策を講じられたのでしょうか?
最も自然に考えやすいのは、呉服の需要が落ち込んでいるのなら、洋服をターゲットにすれば良いのではないかと。
で、実際にそのようにシフトされました。
着物用ではなく洋服用に使う広い幅の生地、いわゆる「広巾」を染めることが出来るように、工場の設備を変えられ、職人さん達を広巾の染物屋さんに行って勉強してもらうように手を打たれました。
伝統的な染物屋さんなら、染のノウハウを決して他社には教えない閉鎖的な世界であるらしいのですが、広巾の染を手掛ける会社さんは、正統派?ではない新しい世界にチャレンジしている会社であるためなのか、そのノウハウについてもオープンな会社が多いとのことで、自社職人さん達を快く受け入れて下さったとのことでした。
このようにして、アパレルテキスタイルプリントという新たなドメインへとシフトされたのでした。
▼アロハシャツとの出会い
洋服の生地へとシフトはしたものの、以前と同様あくまでも製造業として、一般消費者とは遠い「川上」で事業を展開していくことに変わりはありません。
以前から、「川下」で消費者と直接やり取りしたいとの強い意向を持たれていたある時、アロハシャツの起源にまつわる話を耳にされました。
なんとアロハシャツは、ハワイの日系移民が、当時その貧しさの故、持っていた着物をほどいてシャツに仕立て直したのが由来だとのことなんです。
そう思って眺めてみると、今やヴィンテージものとなっているアロハシャツとかは、自分達が昭和初期の図案ストックとして所持しているものと似た柄があるではないか!
そうだ!これだ!とひらめかれました。
自社所蔵の図案ストックは数千点にも達している。
それを使って広巾にプリントすれば、アロハシャツが作れる。
ヴィンテージものと評価される古い図案も豊富。
シャツにまで仕立て上げれば、直販も可能。
その方法としてショップ展開、展示会、オンラインショップ、海外輸出・・・
おお!これはこれは!面白そう・・・
▼パゴンショップの誕生
このような経緯で、京友禅の図案を現代にアロハシャツで蘇らせた自社ブランドPagong(パゴン)が登場しました。
ちなみにPagongとは、うっかり忘れてしまいましたが、どこか南の国の言葉で、「亀」の意味。
「亀田」の「亀」、そのまんまやん(笑)
たいへん手のかかる染め工程を経たシルク100%のアロハシャツですが、基本的に直販で行うということで、通常のもので18,000円。
う~む。安い。
現在は、染工場前に作った店舗と、期間限定での各地で行われる展示会。それとネットショップ。
売る仕組みとしては、まだまだこれからの感が否めないけれど、商品が素晴らしいだけに、今後の成り行きがとても楽しみです。
思わず応援したい気になってしまいます。
▼ドメインを見つめ直すこととは?
今となれば、社長は「もう二度と着物には手を付けない」と言い切っていらっしゃいます。
でも、染物屋として着物から洋服へのドメインのシフトということだけでは、あり得る話だとしか思いません。
この会社の特筆すべき点は、アロハシャツの起源と巡り合い、更には、倉庫に過去の遺物として残っていたそのままではゴミ同然でしかなかったであろう古い図案のストックを大量に所持していることが、アロハシャツのプリントとしての再利用を考えた時に、大きな強みとなることに気付かれたところにあります。
過去からの多くのストックを持った伝統産業系企業が、特に京都にはたくさん存在します。
このような企業の中で、ドメインの見直しを迫られているケースはたいへん多いのです。
ところが、安易なドメインの見直しによって、例えば、西陣織メーカーが、土産物屋に並ぶ決してセンスの良さを感じさせてくれないネクタイを製造することしか出来ないような企業が多いことも事実です。
ドメインを見つめ直すということは、ドラッカー流に言えば、自分自身と自社とを常に見つめ直し、徹底的に強みを考えることが必要です。
大抵の場合、強みだと思っている事柄は、本当の強みではないことが多いです。
そのような隠されたヒントを見逃さない認知力が必要となります。
ドメインを見つめ直すということは、決して椅子の上だけで考えることではないということです。
そんな時間を少しは、散歩したり、アートに触れたり、百貨店をブラブラしてみたりするのに使うようにしていけば、些細なことが思わぬヒントとなる場合もあるというものです。
価値を創出する事業を具体化するということは、決して簡単に実現出来ることではありません。
でも、企業のストックをうまく活用する方向性を発見することが出来ますと、今回ご紹介したような展開も可能となるのです。
(参考)
Pagong Shop http://www.pagong.jp/
(株)亀田富染工場 http://www.joho-kyoto.or.jp/%7Epattern/
■プロフィール
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
eビジネス、組織論、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。
関西SOHOデジタルコンテンツ事業協同組合 理事
関西ベンチャー学会 理事
6月18日に京都商工会議所で講演します。関西方面の方お越し下さいね!
http://www.kyo.or.jp/nouritsu/seminar/0513atara.html
私についてご興味のある方は硝子張り公開→ http://www.sakimoto.biz/
(2003/05/28)









