『ビジネスにマーケティング☆を走らせよう!』に掲載
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「「非対称情報」のマネジメント」
マーケティング・コンサルタント 咲本 勝巳
みなさん、こんにちは!咲本です。
さて今回のお話は、2001年にノーベル経済学賞に輝いた非対称情報の経済学をベースにしつつ、実践を標榜するこのメルマガらしく、「非対称情報」のマネジメントについてお話していきたいと思います。
この「非対称情報」の経済学、経済学部の学生さんなら、最早常識かと思いますが、私のような専門外の人間も多数いらっしゃるのではないかと思い、まずはこの経済学の考え方について手短にお話させていただきますね。
▼ 「非対称情報」の経済学とは?
この経済学では、市場の情報は不完全・非対称であると考えます。
伝統的な経済学では、市場の情報は完全で同質、対称的であると考えられてきました。
情報が非対称である例を挙げてみましょう。
例えば、中古車市場において、車の売り手とディーラーは、その車が欠陥車なのか、状態は悪くはないが買い換えるために売ろうとするものなのか、車の状態がほぼ正確にわかります。
その反面、車の買い手は、修理・整備が行われ、ピカピカになった中古車を見ましても、その車が事故車のような欠陥車であるのかどうかといった情報が十分にはわかりません。
このように情報が一方には十分あり、もう一方には不十分であることを、情報が非対称であるといいます。
欠陥車のことをこの経済学では「レモン」(トランプのババ抜きのババみたいなもの)と呼び、レモンを選んでしまうことを「逆選択」と呼びます。
▼ 情報化社会なのに増加するレモン
詳しいことはさておきまして、私達にとって重要なことは、情報化社会になればなるほど非対称情報は増加すると結論付けられているということです。
みんながインターネットで情報発信する社会になれば、非対称情報がなくなってくるのではないの?とお感じになった方も多いかと思われます。
確かに情報発信することは大変重要です。
しかし、情報化社会になればなるほど、個々の情報が専門特化されていき、そこに非対称情報が多くなってくる余地がたぶんにあります。
この非対称情報を逆利用して、お客さまに「レモン」をつかませようとする悪徳業者も発生しやすくなります(=モラルハザード)
こういう時代であるからこそ、「うちの会社のここをみて欲しい」という「シグナル」を示し続けることによって、レモンではないことを明らかにしていく「非対称情報」のマネジメントとでも名付ける活動が、企業に求められます。
「シグナル」を発し続けていかないと、レモンではないのにかかわらず、レモンかもしれないと疑われることにもなりかねません。
▼ レモンかもしれない某清掃用品レンタル大手企業
某清掃用品レンタル大手に、レモンである可能性が見受けられるニュースが流れました。
一度そのようなシグナルを出してしまうと、なかなかレモンであるというところから脱却出来ません。
では、この企業はレモンだとのレッテルを貼られないための、「非対称情報」のマネジメントが行われたのでしょうか?
その企業のトップページを見てみますと、Topics欄下部に「お詫び」ボタンが小さく付いています。
お詫び文の日付を見ますと6月4日となっていますが、実際にニュースで騒がれ始め出したのは、6月3日の朝です。
24時間以上経過しないと何もアップ出来ないというのは、「非対称情報」マネジメントがなされていない証拠です。
また、当初ボタンの色は、背景色と同じのものでして、非常にわかりにくくしてありました。
(その後、新聞の謝罪広告も掲載する時、つまり6月10日にボタンの色は現在のものに変わりました。)
Topics欄に更新情報が掲載されるわけなのですが、こちらには書かれていないということは、いずれこの情報はサイトから削除しようと思っているのではと勘ぐりたくもなります。(くさいものに早くフタをしたい!?)
ミスタードーナツの事件後、臨時株主総会で役員を刷新、情報の透明化を目指した組織改革を昨年秋から開始しているはずであり、3~4年後に東証に上場したいというこの時期に起こった今回の事件を、おそらく企業にとってのピンチあるいは脅威と受け止めてしまったのに違いありません。
▼ 弱みと脅威からの発想?
ここで有名なSWOTから今回の事件を考えた場合を想定してみましょう。
SとWつまり企業内部の強みと弱み、OとTつまり企業外部の機会と脅威の4つの側面から、どのように行動すべきかを考えた場合のことです。
特別背任罪で元役員が逮捕という事実からは、やはり弱みと脅威に該当させてしまうことでしょう。
となれば、ついつい「くさいものにフタ」をしたくなったり、あまりそのことには触れないようにしたくなるものです。
Webサイトから状況を汲み取るだけでも、この企業が弱みと脅威志向であることが伺い知れます。
でも果たして、このようなことで良いのでしょうか?
▼ 参天製薬の場合
ここで2000年に薬局の目薬に毒物を混入したと脅迫状の送られてきた参天製薬の対応を想い出していただきたく思います。
この企業は郵便物が届いた翌朝には、Webと記者会見で全国の薬局の目薬全品の回収を発表しました。
売上の損害という弱みや脅威にばかりこだわっていれば、このような大胆かつ迅速な対応をすることは出来なかったことでしょう。
では、なぜそのような決断が出来たのでしょうか?
いくつもの理由があったでしょうが、そのひとつには、弱みや脅威を考えるよりも、強みと機会(チャンス)をいかにモノにするのかと立場からの発想があったのではないかと私は考えます。
こういった事件は、強みと機会重視志向から考えれば、脅威どころか大きなチャンスをつかむ絶好の機会となるのです。
結果的には、いたずら防止の特殊フィルムに入った目薬で販売を再開後は、安全を第一に考えた大赤字覚悟の全品回収、迅速な決断と公表が、大きなイメージアップとなり、その年の決算は増収増益となりました。
▼ では、どのようにすればよかったのか?
某清掃用品レンタル大手も強みと機会重視志向であれば、今回の事件を大きなチャンスとする可能性はあったはずだと考えます。
情報の透明化に本当に取組んでいる最中であるのなら、私だったら事件直後に、すぐさま謝罪文を掲載します。
そして、最低でも1日1回以上、情報の透明化についての取組みについての進捗状況を公開し続けるようにいたします。
情報の透明化をすすめると言葉で発言しても、「どのように」透明化をすすめているのかとか、本当に透明化が進んでいるのかという点について、外部の人間は何もわかりません。
だったら、この企業はレモンだと言われないようにするためには、具体的な進捗状況を思い切って情報公開していくしか、それを払拭する方法がないかと思うのです。
で、そういった思い切ったことを始めるのには、今回の事件は絶好の機会だったはずなんです。
あ~あ、勿体ない(笑)
▼ 「非対称情報」マネジメント
さて、今まで事例を見てきましたことから、「非対称情報」マネジメントをすすめるにあたってのポイントを挙げておきましょう。
- 積極的な情報公開・情報発信が、ますます重要となってきている。
- 「当社はレモンではない」という発言には何の説得力もなく、そのように認識出来るに値する行動を見せなければならない。
- 強みと弱み、機会と脅威とは、物事を捉える際にあたっての裏腹な関係であり、強みと機会から発想することにしか、真の打開策はない。
- 以上の点について、日頃から全社的に徹底化した行動が出来ていなければ、突然起こる大きな事件ひとつで、雪印のように崩壊する可能性がある。
このコラムを書いている最中に、F1のエンジンを作っている(株)無限が、法人税法違反容疑で本田宗一郎の長男である経営者、本田博俊が逮捕されました。
この企業が、今回の事件をどのように対応するのか、「非対称情報」マネジメントの視点から見守っていきたいと思います。
■プロフィール
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
eビジネス、組織論、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。
関西SOHOデジタルコンテンツ事業協同組合 理事
関西ベンチャー学会 理事
今回のコラムは、先日の講演でお話させていただいたことを機会に、日刊「WEBのツボ!」というメルマガコラムで書きましたものを、大幅改訂したものです。
このメルマガは、実は私が編集担当しているものです。
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(2003/07/04)