2004/1/22 木曜日

消しゴムと創発的戦略

Filed under: マーケティング — 咲本 @ 23:04:31

『ビジネスにマーケティング☆を走らせよう!』に掲載
http://www.mankai.biz/

「消しゴムと創発的戦略」

マーケティング・コンサルタント  咲本 勝巳

みなさん、こんにちは!咲本です。

原稿配信日を大幅オーバーしてコラムを書きはじめています(汗)

「あれっ?咲本のコラムがなかなか配信されて来ないなあ」と思われていたかた申し訳ありませんでした。
編集長のコヤマンにもごめんちゃい。

今回はたまたまWebサイトで面白い消しゴムを見つけましたので、それを取り上げさせていただきます。

▼ 今までの消しゴムの種類

現在、どのような消しゴムが発売されているのか、カスタネット植木さんからいただいた注文カタログをひもといてみました。

そうしますと、昔懐かしい砂消しゴム、香り付き消しゴム、トンボ鉛筆のMONOブ
ランドのいわゆるプラスチック消しゴムなど、いまだに販売されています。

また、消しくずが少ない、あるいはまとまるタイプの消しゴムが商品数では多く、比較的最近の傾向としては、環境に配慮された非塩化ビニール製の消しゴムが増えつつあるようです。

まあそれ以外での消しゴム新商品開発ということでは、環境を意識してホタテの貝殻を材料に使用した消しゴムや、細い芯状の消しゴムをペン状のホルダーにおさめたもの、さらには電動で消しゴムの芯が振動するといったタイプや、デッザン用の練り消しゴムといったところです。

そんな例外的な消しゴムはあくまでも特殊なものであり、あまり売れ行きのよい商品となるとも思えません。

所詮鉛筆で書いたものを消すための道具なのであり、今までとは違った切り口で今更注目されるような消しゴム開発の余地など、一見なさそうに思えます。

▼ 「カドケシ」の開発

そんな中、文具最大手のコクヨから「なんじゃこれは!」という驚きに加え、楽しさも提供してくれそうな消しゴムが発売されています。

商品名は「カドケシ」。

ユニバーサルデザインの文具を製品化するアイデアを探そうと開催された「コクヨデザインアワード2002」の受賞作品からの製品化第1号となったものです。

まずはどのような消しゴムなのか、下記の画像をご覧になってみて下さい。
http://www.kokuyo.co.jp/ud/story/img/kado_pic02.jpg

この消しゴムは「カドで消すと消しやすい。だったらカドをたくさんつくればいい。」という発想をシンプルに追求していった結果、小さなキューブをつなぎ合わせることで28個もの角を作り出し、使っていくうちにうまい具合に次の角が現れるという設計になっています。

モニター調査の段階でも、とても消しゴムとは思えない衝撃を受け、ちょっと説明したあとでは、意表をつかれた感じで興味を持ってもらったとのことです。

そのため、商品パッケージにも「これが新しい発想の消しゴムである」ということが一目でわかる工夫がなされています。
http://www.kokuyo.co.jp/ud/story/img/kado_pic06.jpg

▼ アイデアコンテストが功を奏した

「カドケシ」製品化にあたってたいへん重要なきっかけとなりましたのが、「コクヨデザインアワード2002」の開催です。

「アイデアコンテスト」を開催することなど、あまりにも当たり前に見受けられることなのかもしれません。

でも「業界発想の外部にこそヒントがある」ということからすれば、このようなコンテストは思いもよらない斬新なアイデアを得るのにたいへん有効だと思います。

たかが消しゴムのことともいえるのかもしれませんが、何十年にもわたって、世界中の誰もが思い浮かばなかった製品アイデアが出てきたわけですから。

でも、有名大企業が大々的に宣伝して実施するならいざ知らず、中小企業であれば自社内からこのようなアイデアが続々登場することが望ましいですよね。

では、大企業も含まれますが、特に中小企業でそのようなイノベーションが起こり続けるためにたいへん重要なのは、どういったことなのでしょうか?

▼ 「創発」とは?

中小企業に強く求められているのは、創発的戦略の重要性です。

私の前回のコラムでは、書評のようなことを書いてしまったわけですが、創発的戦略という場合の「創発(emergence)」という考え方を、前回の書評で取り上げたマイケル・ポランニー『暗黙知の次元』に従って、ご説明しておきましょう。

日本語で「創発」といいましても、「創造したり発明したりするクリエイティブなこと全般を指す」ということでは決してありません。

例として、機械式時計でご説明しましょう。

時計は様々な歯車等の部品によって成り立っています。

ところが、時計が正確に時を刻む「原理」を説明するのに、「時計の動く原理」より「ひとつ下層」にあたる「各種の構成する部品」をいくら分析してみましても、歯車の直径とかたくさんのデータを入手できるだけで、「時計の動く原理」を知ることは決してできません。

これをポランニーは「個々の諸要素を統括する規則によって、より高位層の組織原理を表すことはできない」といっています。

消しゴムに言い換えますと、消しゴムの使用できる素材レベルでのバリエーションがわかっていて、それをいくら分析しても、「カドケシ」を生み出した発想は「高位層」での原理なので、それに到達することは絶対にないということです。

「高位層」にある「カドケシ」は、「下位層」たる素材の物理的制約には「制限」
されますが、その制限内であれば、逆に消しゴムの想定しうる素材や形状などは「高位層」たる「カドケシ」の原理によって制御されます。

もっといえば、「カドケシ」という商品は、元となる素材として存在しているものによって決定されることはないのです。

これを生物の発生にまで敷衍しますと、「生命体が誕生するときには、無生物には存在しない、ある原理が稼動し始めているのに違いないのだ。」ということになります。

簡単にいえば、このように例示したような、下位層とは明らかに違う上位層たる原理を生み出す力のようなものを「創発」と呼ぶのです。

▼ 戦略策定と戦略形成という立場

実は最近、ビジマ定期的執筆者内での閉じた世界で、「戦略策定」と「戦略形成」どちらを支持するの?みたいな議論をしていました。

もしコヤマンに余裕のある時間があった際には、一連の議論をまとめて発表するかも?!(でもかなり困難かも)

結論的には、どちらか一方だけ必要で、他は排除すべきであるというわけにはいかないのですが、そこをわかっていてディベート風に議論をすすめることができる人達なので、かなりやり合いました。

今回のコラムでは、そのことはおいておきまして、「戦略策定」とは、「カドケシ」製品化のアイデアなど全くない頃に、「今まで消しゴム概念をくつがえす製品を早急に開発することを決定する」とか、コンテストで受賞した「カドケシ」アイデアを売れる商品化することを決定する」とか、「戦略策定」とは、そういうところで重要な力を発揮します。

その反面、企業内に策定発想が蔓延していましたら、既存の消しゴムにならって製作した商品群ばかりとなります。

ありふれた商品ばかりを世に出す企業は、当然ながら価格競争で勝負するしか選択肢がなくなります。
(泥沼への道を直行するしかありません)

ありふれた消しゴムのような商品群ばかりを擁する中小企業って、全然ダメダメスパイラルに入りますことは間違いないですよね。

一方、「戦略形成」という方向性は、ボトムアップ的にアイデアが多数出続け、そのような中から「カドケシ」のようなプロトタイプとなるものが出てくるという方向性を指します。

余談ですが、通常「戦略」と表現されているのは、より実践的に考えるのには、「方向性」という言葉として理解した方がマッチすると考えています。

▼ 創発的戦略の今日的重要性とは?

創発的戦略の今日的重要性とは、現在がドンドンと変化の激しい世界となっていく一方であるからです。

世界中で大きな議論を巻き起こしたイノベーション論の論客たる『イノベーションのジレンマ』著者のクレイトン・クリステンセンが著わした注目すべき新著、『イノベーションへの解』によりますと、次のように書かれています。

「創発的戦略は、意図的戦略策定プロセスの分析、計画段階では予見できなかった問題や機会に、マネージャーが対処することによって生まれる。創発的プロセスを通じて出来上がった戦略の有効性が確認されれば、それを公式なものとして改良し、活用することは可能だ。このようにして、創発的戦略を意図的戦略に変えることができる。」

そうなのです。

現在は、意図的戦略を策定することよりも、策定しようとした途端、時代の変化が激しいが故に、策定できるだけの根拠も希薄となり、場合によれば創発的戦略を押し殺す可能性すらあるわけです。

すなわち、創発的戦略のほうをそれこそ意図的に重要視して、そこから策定できるものを模索するという、20世紀には当たり前であった戦略策定の位置づけを逆転することが必要となってきているのです。

勿論、どちらの立場も二者択一ではなく、同時に必要となるのに、二つの戦略の一方だけを推し進めようとするが故に「ジレンマ」が発生する状況を指摘していたのが前著『イノベーションのジレンマ』でした。

では、それに対する解は?

その解は『イノベーションへの解』を読んだ上で、個々に考えれば良いのではないでしょうか?
ここまで話を詰めれば、ご自身なりの答えが出やすいはずです。

私になりに書いてもよいけれど、ここ最近、某MLで全く考えない人達ばかりであることに愕然としているので、ホントに問題意識が高ければ、自ら本とか読んだ上で、結論を出せるものだと信じています。
(アホに対して本人が賢ぶる目的に暗記物のような答えを提供しないのです。)

【参考一覧】
コクヨのカドケシ http://www.kokuyo.co.jp/ud/products/eraser/index.html

カスタネットのオフィス用品通販カタログ http://www.castanet.co.jp/

暗黙知の次元 暗黙知の次元



イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき



イノベーションへの解―利益ある成長に向けて イノベーションへの解―利益ある成長に向けて



■プロフィール
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
eビジネス、組織論、経営戦略、創業、ベンチャー、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。

大阪市立大学・大学院創造都市研究科アントレプレナーシップ研究分野「創業アドヴァイザー」
関西ベンチャー学会 理事
関西SOHOデジタルコンテンツ事業協同組合 理事

ビジマのオフ会、新年会、石川県への泊りがけ温泉呑みまくりツアー等々、毎日連続し続けたアルコール摂取がたたりすぎて、体調を崩してしまった。

コラムの配信日さえ過ぎている状況で、熱が下がらないまま書いているので、冷静に後日読んでどうなのかさえ、全くわかりません(汗)

普通は新年の決意とかあるのでしょうが、私のリズムでいえば、4月1日という、エイプリールフールに1年の決意をさせてもらったほうが、自然な感覚であり、タイミングの良いほうが、目標の実現可能性が高いということもあって、元旦を迎えての新たな決意などない。

あと、コラムでご紹介した新刊書『イノベーションへの解』は、全ビジネスマン必読書。
できれば、前著『イノベーションのジレンマ』も併読されることもおすすめ。

私についてご興味のある方は硝子張り公開→ http://www.sakimoto.biz/

mailto:sakimoto@tokeidai.net
(2004/01/22)

2004/1/19 月曜日

独立を考える方によく効く書籍

Filed under: 読書 — 咲本 @ 22:03:12

『日刊SOHOのツボ!』に掲載
http://www.soho-union.com/soho/

「SOHOによく効く書籍」(#001)
咲本@時計台ネット

【○】本日のお題「独立を考える方によく効く書籍」」━━━

みなさん、こんにちは!咲本です。

新年が明けましてから少しブランクが空いてしまいました。
本日よりメルマガをスタートさせていただきます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

ということで、今回から10回にわたりまして私がお届けするコラムのお題は、
「SOHOによく効く書籍」として連載させていただきます。

では、早速スタート!

独立開業マニュアル―これだけは知っといてや辻井 啓作『独立開業マニュアル―これだけは知っといてや』


天下の岩波書店から発行されたこの本は、なんと書籍の常識を破る関西弁尽くしで書かれています。
よくぞ発行したもんだなあと感心してしまいました。

例えば、第5章「自己投資」では、

一つめは仕事を通じて勉強して成長することや。最初は簡単、目先の仕事を一生懸命やることや。けどそれだけではすぐに限界が来るで。次には自分が興味を持てて伸びていけそうな仕事をとることや。その場合は極端な話、採算が合わなくても仕事をとるべきやと思うし、ワシはそうしてきた。成長して次の仕事で採算をとったらええねや。勉強させてもらってカネも充分儲けよゆう方が甘いわ。
そのかわり、仕事をしながら覚えることは下手打てへんだけに強い。必死でやるから、成長も早いで。

と、ずっとこんな調子なんです。

目次から小項目を挙げていっても、

  • たまにはキレなあかん!
  • 媚びたらあかん
  • アホなことを長い間やることが評価を受ける
  • 友達を雇うときには覚悟せい

なんて項目がずらっと並んでいる。

関西人以外は、文章が多少読みづらい点もあるかと思いますが、関西弁であるがゆえに語りやすいニュアンスも伝わってきて、私は評価いたします。

内容的にも人脈の作り方、経営管理、営業、雇用、会社の作り方などなど、独立開業について必要な事柄が包括的かつ新書版としてコンパクトにまとめられています。

はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術マイケル・E・ガーバー『はじめの一歩を踏み出そう 成功する人たちの起業術』


書籍の帯には、「Inc.」誌2000/10/17のアンケートで米国・成長企業の500のCEOがNo.1に選んだ本と書いてあります。

なるほど、事あるごとにパイ専門店を営むサラという人物を引き合いに出しながら、事業を立ち上げる人には「起業家」「マネジャー」「職人」という3つの人格を併せ持っており、そのシーンによって3つの人格の出し方のバランスが崩れてしまうところから、行き詰まりが生じるところをたいへんわかりやすく描き出しています。

本書は、ある意味とっても米国らしい起業術の書です。

米国らしいという意味は、先程ご紹介した辻井氏の本には出てこない、事業のパッケージ化、マニュアル化、数値化、システム化の重要性が全面的に主張されているからです。

強いて2つの書籍を位置付けますと、前者は「開業」、後者は「起業」という立場から書かれたものといえるでしょう。

これは、どちらか一方を理解しておけば良いということではなく、視点が違えば注目点も変わるというだけのことですので、両方お読みになり、その時々で多角的に捉えられる視点を学んでいただきたいと思います。

スモールビジネスマネジメントデブラ・クーンツ トラベルソ『スモールビジネスマネジメント』


本書は、前述の2作を読まれた上で、具体的に実践していかれる際に、是非読んでもらいたいです。

「神は細部に宿る」といいますが、ホントに細かいところにまで神経を行き渡らせ、日々実践していくことの重要性がヒシヒシと伝わってきます。

例えば、「電話を受ける」という項目で指摘されていることの一部だけでも、「最初のベルで出ない」「子供たちやペットを遠くに追いやろう」「家族を啓発しておこう」「自信ある態度で」「常に電話に出ることができるように」「電話するのに「ベストの時間」を作ろう」「沈黙は気にしなくていい」等々と、指摘されるのは、とても細かい点にまで至ります。

そのようなポイントをきっちり実践していくためのチェックポイントが折に触れてまとめられています。

ホームオフィスの環境であっても、大きな組織に負けないだけの実践法が網羅されているのです。

是非、本書でSOHO事業者とやっていくための、事業への取組みにおける繊細な神経の使い方を実感してほしいです。

▽ まとめ

独立して事業を行うには、当然リスクがあります。

かといって、最近各方面で紹介されることのあるサラリーマンの「週末起業」には、私自身としては否定的です。

サラリーマンという安定??した立場を保ちながら、片手間で起業できるほど、世間は甘くはないと思うからです。

もしうまくいったとしても、まぐれ当たりに近いレア・ケースなのでしょう。

では、リスクを含む独立について、最初に考えるポイントはどこにあるのでしょうか?

これは、マイケル・E・ガーバーが前掲書PART Iで明確に語っています。

すなわち、起業にあたって「誰もが必ず陥るワナ」とは「事業の中心となる専門的な能力があれば、事業を経営する能力は十分に備わっている」と考えるところからくる誤解です。

そういった知っていたら起こらなかったであろう独立後の失敗を3冊の本から学んでいただきたいと思います。

【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。京都在住。eビジネス、組織論、創業、ベンチャー、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。

このメルマガ原稿は無事?書き上げられたが、私が発行人をしているメルマガの原稿締切とモロにバッティング!!
そちらのほうは無事書き上げられるのだろうか?ちょっと不安。
http://www.mankai.biz/

上記メルマガ執筆関係者限定の閉じたメーリングリスト内でバトルが勃発。
まあ今回だけじゃなくて、よくあるビジネス談義のバトルだったりするわけだが。。。

現在議論しているのは、ビジネスにおける戦略策定派と戦略形成派の違いと、その有効性、自分の寄って立つ立場などについて。
MLを使ってできる議論の限界に挑戦?!

お互いわかっているので、ケンカにはならずに議論が交わされるのが救いです。

敢えて自分の本意ではない立場の側に立って、ディベートしようという人間さえいるほどである。

一方、クリエイター系が中心に集まるMLで、こんなビジネス系の議論を持ちかけ煽ってみると、本気で嫌がる人が続出した。
(中には、そんな議論に興味のある人も少数ながらいた。)

PCの前に座り込み、自分にとって痛いビジネス系トークを遮って「平和に?」過ごしたい人口が多い模様。

ちょっと残念。

私のことはWebでガラス張り公開中→ http://www.sakimoto.biz/
mailto:sakimoto@tokeidai.net
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2004/01/19)

Creative Commons Licenseこの作品は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。
Get FirefoxIE等のレンダリングバグには対応していません。W3C標準仕様準拠のブラウザでご覧ください。