ビジネス理論・手法の見極め
『日刊SOHOのツボ!』に掲載
http://www.soho-union.com/soho/
「SOHOによく効く書籍」(#010)
咲本@時計台ネット
【○】本日のお題「ビジネス理論・手法の見極め」━━━
みなさん、こんにちは!咲本です。
いよいよ「SOHOによく効く書籍」も最終回となりました。
今まで様々な角度から書籍をご紹介してきました。
それらを読むことで、たくさんのビジネス理論・手法を学ぶことができます。
でも、それらが本当に使えるものなのか、そのように著者が主張する根拠や理論的背景はどうなっているのか、このような疑問が残ります。
私は、読書体験を行うには、そういった「見極め」をできる視線を持つべきであると考えます。
そういった意味で、この最終回では「ビジネス理論・手法の見極め」に効く書籍をご紹介させていただきます。
野中 郁次郎、紺野 登『知識創造の方法論―ナレッジワーカーの作法』
知識経営分野で世界的に有名な野中氏が、知識創造に必要なコンセプト創造力やビジョン構想力を鍛えるのに必要なバックグラウンドについて述べられたのが、本書です。
そのバックグラウンドとは、哲学や社会学などの知を指します。
概して日本人がコンセプト創造力やビジョン構想力に乏しいのは、これらバックグラウンドが乏しいからだと著者は指摘し、その鍛え方について具体的な提案がなされています。
また共著者の一人である紺野氏からは、数々のデザイナーの知・設計の知が提案されています。
例えば、ブレーン・ストーミングではなく、ボディ・ストーミングの提案。
ちなみに説明文を引用しますと、
ボディ・ストーミングは、ユーザーの身になってカラダを動かし、それを媒介にして、感じて得たことを暗黙知として蓄積していく、という「ユーザー・セントリック(使用者中心の)」思考プロセスです。
というものです。
それらを踏まえて、最終的には企業事例による知識経営からの分析が展開されるのですが、この点については、以前の野中氏の著書を読んだ経験のある人にとっては、新鮮味が感じられるものではありません。
しかし、哲学や社会学などの本をほとんどお読みになったことがない方にとっては、ここに記述されていることくらいの知識はマスターすべきではないかと考えます。
これらの知識がない方は、現場のナレッジワークの質が上がらないということを深く実感してください。
弁証法、プラグマティズム、現象学、デュルケームやウェーバーの社会学‥これらがチンプンカンプンだという方は、特におすすめです。
稲垣 保弘『組織の解釈学』
こちらは研究者が読みそうな、ちょっとマニアックな書籍です(笑)
そんな本をなぜここでご紹介しようというのでしょうか?
本書は経営学における有名な組織論を説明しながら、それを「解釈学」の視線から、その評価ポイントや思わぬ盲点を明らかにしていくことを中心に展開されています。
登場するのは、テイラーの科学的管理法、マクレガーのX理論・Y理論、バーナードの組織論、サイモンの管理科学論、ローレンス=ローシュのコンティンジェンシー理論、マーチ=オルセンのゴミ箱モデル、カール・ワイクの組織化の進化論的モデル、モルガン=フロスト=ポンディの組織シンボリズム研究‥‥、
といった具合に組織論の代表的理論がほとんど紹介されています。
これらの理論をご存知ない方でも、本書を読めばそれらがどんな理論であるのかがわかりますので、その点についてはご安心のほどを。
さて、この本の魅力は、これらの理論を紹介することにあるのではなく、それら理論を「解釈」していく視点が、とてもスリリングであり、理論解釈する眼を養うのにたいへん参考となるところにあります。
先程ご紹介しました野中氏の著書には一部しか登場しないマイケル・ポランニーの暗黙知理論やアーサー・ケストラーのホロン理論を稲垣氏の解釈学における拠って立つ場としつつ、個々の理論の評価できる点と弱点を浮き彫りにしていくプロセスを辿っていくことで、、
「ああ、このように解釈していけばいいんだな」とか、
「いくら有名な理論であっても、ここが弱点だと見抜く視点になるなあ」
と感じさせてくれます。
ただ、暗黙知理論やホロン理論の説明を稲垣氏は行ってはいますが、ごく簡単な説明にとどまっているため、この理論を前もって学んでおくことが望ましいでしょう。
尚、予習しておくべき著書2冊は下記のものです。
マイケル・ポランニー『暗黙知の次元』
アーサー・ケストラー『機械の中の幽霊』
▽ まとめ
みなさんは、世界的に有名なビジネス理論・手法だったら、それをそのまま鵜呑みに信じますか?
私はいくら偉い先生が述べられましても、そうはしたくないのです。
(単なるヒネクレ者かも?)
鵜呑みにしないためには、その理論・手法をどのように評価するかということを判断するためのバックボーンを持っていることが要求されます。
私が10回にわたっての連載で取り上げてきました書籍といえども、理論・手法を見極める眼を持たれた上で読書していきませんと、眼前に登場する様々な理論・手法・主張を前にして、逆に頭の中が混乱することにもなりかねません。
みなさん、どうぞ最終回にご紹介した書籍をお読みいただき、そのような眼差しをもって読書できるようになって下さいね。
尚、10回にわたってご紹介した書籍全ては、人気度や有名度によって選んだわけではなく、私自身の「解釈学」の眼差しを通して選んだものであることを付け加えておきます。
▽ 「付録」最終回ならではの、もっと濃い話をご希望の方へ
私は今回のコラムシリーズ以外でも、折に触れて、マイケル・ポランニーの暗黙知理論を取り上げてきました。
おそらく今回ご紹介の知識経営の権威たる野中氏よりも、暗黙知理論そのものを語る機会は多いのではないかと思うほどです。
そんな私から、もっと濃い情報を得たい方向けに、裏ネタとなる書籍をご紹介します。
経営学の巨人たるドラッカーと、マイケル・ポランニーの兄である経済人類学者のカール・ポランニーとのハンガリー時代から深く交流をしていたわけであり、後にドラッカーが『傍観者の時代』として上梓される書籍は、カール・ポランニーとの交流に刺激を受けて出されたものだったのです。
ポランニー家のカールとマイケルは、育った環境に強い影響を受けて、このように後世にも残る研究成果を出したわけですが、これはポランニー家のことだけにとどまらず、当時のハンガリーからは、数学者ノイマン、物理学者シラード、精神分析学者ローハイム、社会学者マンハイム、哲学者ルカーチ、ドイツ民衆映画同盟創始者であるベラ・バラージュ、作曲家のバルトークやコダーイなど、当時ある時期だけで、歴史に残る人物を大量に輩出したのです。
なぜ、一時期に特定の小さな国から、歴史に残るだけの研究成果を出した学者が登場したのでしょうか?
ちなみに、マイケル・ポランニーの息子、ジョン・ポランニーは、親が意図的に避けていたノーベル化学賞に輝いています。
本書は、私の提唱する「解釈学」の視点を超えて、もっと深い思想環境という点にまで踏み込んだ労作です。
いわば、天才はいかなる環境で生まれるのか?というテーマです。
でも、天才ではない私をはじめとする人間には、直接的にはかかわらない問題設定ですよね。
それでも1982年に第1刷が出されたという20年以上も前に刊行された書籍を、改めてご紹介しようというのには、それなりに理由があります。
そもそも、物理学の教育のなされていなかった当時のハンガリーから、世界的に評価される物理学者が続々と登場したのは、いかなる理由からなのでしょうか?
それは、当時の知識人同士の交流の姿や、そんな交流の場があったこと、思想的な基本的構えなんかが影響しているはずです。
そんなベタなところを解き明かしてくれるのが、本書のすごい点です。
背景となる理論を学ぶことにも飽きられた方は、このあたりにまで踏み込んで学んでいただければ良いと思いますよ。
【プロフィール】
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
1965年京都生まれ。京都在住。eビジネス、組織論、創業、ベンチャー、経営戦略、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。
関西ベンチャー学会 理事 http://www.kansai-venture.org/
大阪市立大学・大学院創造都市研究科アントレプレナーシップ研究分野「創業アドバイザー」 http://www.gscc.osaka-cu.ac.jp/
起業・マーケティング・eビジネスによく効くメルマガ「週刊☆ビジマ」発行人
http://www.mankai.biz/
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カンデジ・メンバーでは、私とおかきたさんが講演いたします。
こんなコラムを書いてきましたが、実は私の本業はeビジネス系のコンサルなんですよ(笑)
ご興味がある方は、是非ご参加の程を!
私のことはWebでガラス張り公開中→ http://www.sakimoto.biz/
mailto:sakimoto@tokeidai.net
(ご意見・ご感想・ご提案お待ちいたしております)
(2004/05/31)












