2006/4/30 日曜日

愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(4/4)

Filed under: マーケティング — 咲本 @ 4:23:37

手元にはAmazonから届いたカシータのオーナー高橋滋氏の著作、『I am a man.―チームワークと顧客第一主義がポイント!奇跡のレストラン「カシータ」の作り方』がある。

I am a man.―チームワークと顧客第一主義がポイント!奇跡のレストラン「カシータ」の作り方
この書名の由来は、本の帯に書かれている

レストランは、ハードじゃないよ、ハートだよ

という、いくら建物や内装にお金をかけたって必ずしもお客さまの感動にはつながらない。むしろハート、つまりはハートーソフトー人間がお客さまの感動につながるのだとのオーナーの確信を表現している。

それとカシータの手本となり、カシータの店舗名の由来ともなる高級リゾート「アマンリゾーツ」の「アマン」=AM、いざという時の顧客対応のすばらしい「AMEX」=AM、ファーストクラスの客へのサービスが行き届いた「全日空(ANA)」=ANの3つを掛け合わせたものとなっている。

本の概要については、一読願えればすぐに理解いただけるはずなので省略する。
ここでは私なりにこのようなレストランを運営するにあたって重要となる教訓を一部本の中から挙げておくにとどめる。

  • いつの場合でも自分や店の都合・決まり事よりも、お客さまの都合と喜びが最優先される。お客さまにNoといわない。
  • お客さまのことを全スタッフが名前で呼べることは基本中の基本。
  • いつ誰がサービスしても高水準である一定レベルを落とさない。人によってサービスが低下するようなことにならないようにする。 「日にち、テーブル、スタッフによるむらがあってはいけない」
  • 直接的にお金にならない仕事でも笑顔でスピーディに対応する。
  • 組織全員が個々のお客さまについて深く理解できている状況を維持するために随時、頻繁に内部コミュニケーションをはかる。
  • 無料のサービスだからといって途中でやめてしまったり不親切になるくらいなら、最初からサービスは行わないこと。行うのであればいつの場合でも当然であるかのように徹底すること。
  • 高額な金額を支払うお客さまほど精神的解放を求めるのであり、お客さまのわがままを喜んで実現させていただこうとのマインドが必要。
  • 感動はちょっとした心配りや過去来客時の記憶を反映させた行動などスタッフの行動から生まれる。物や設備によっては感動を与えられない。
  • お客さまには気持ちでよく思っているだけではなく、それを言葉や行動に表さないと伝わらない。「気持ちは、言葉に変えて、右足に乗っけてお客さまに伝える」
  • お客さまにはテクニックよりも最初に真心ありき。お客さまには「フレッシュ&フレンドリー」 で。
  • 「一つの感動のサービスは、たくさんのサービスの布石があってこそ。」たくさんの仕掛けを仕事として行っていないと、お客さまに気づいてもらえるのはそのごく一部だけである。

等々、列挙していくと多くのことについて学ぶことができる。

ところが、これら重要な教訓についてマーケティング的観点から整理しようとした途端、おかしなことになってくる。

それは、例えば本の帯に「世界中の学生、ビジネス・パーソンに読み継がれてきたマーケティング論のスタンダード」と銘打つフィリップ・コトラー『マーケティング原理【第9版】』をひもといてみると明らかとなる。
なぜなら、この分厚い本には上記に関係する事柄については、何一つ語られていないからである。無理に関連語句だと言い張っても「販売部隊」や「人的販売」なる言葉で語られる虚しい議論でしかないわけなのだ。

こんなことを言い出すと、学者先生やMBAホルダーの人達から「コトラーはマーケティング論を語っているのであって、サービス・マネジメントを語っているわけではない」なんていった反論が聞こえてきそうであるが、お客さまに感動を与えることが不可能な議論がマーケティングというのなら、そんなものはどうでもよろしい(笑)

マーケティングがそんなものだけであるというのも面白くないので、ここでは顧客の感動につながる(かもしれない)マーケティング手法をひとつだけご紹介しておくことにする。

それは「インタラクション・マップ」なるものである。

ごくごく簡単に説明しておくと、顧客との「コンタクト・ポイント」を全て列挙した上で、できれば簡略化したイラストなども交えながら、一連のコンタクト・ポイントを含めた流れを大きな紙一枚の図に表したものを2枚用意する。
そのひとつには、一つ一つのコンタクト・ポイントで生まれる顧客経験を記述していく。
すなわち、それぞれのコンタクト・ポイントで現状の顧客経験がいかなるものと受け取られているのだろうか、いやな気分にしているのはどういった点なのか、また喜ばれている点はどういったところかについて書き込んでいくのである。

その上で、もう一枚の図には、全体をひとつのブランド経験として俯瞰しながら、コンタクト・ポイントを理想的にしていくための改善策を記述していくのである。

これを商売経験がなかったり経験が浅かったりするコンサルタントのようにCRMなる屁理屈ばかりが目に付く言葉で片づけるのではなく、「お客さまとの絆づくり」や「快適な顧客経験の演出」と捉えて、よりよいものに改善していけばよい。

詳しくは、我がデジハリ大学院「インターネット・マーケティング」講座の教科書として採用している下記の書籍を参照していただければよい。

統合マーケティング戦略論ドーン・イアコブッチ、ボビーJ.カルダー『統合マーケティング戦略論』


さて、話は変わってカシータのようなお店を立ち上げ、運営していくのは並大抵の努力では難しいことくらいは明白なところであろう。
このようなサービスを運営していくのには、普段から感性を磨いていくことが重要だということが高橋氏の本から伺い知れる。

すなわち、「これは素晴らしい!」というハイ・クオリティなサービスをたくさん経験することによって、サービスに関する感性は磨かれていき、その感じたサービスを自身の事業に活かすヒントになるだろうし、そもそもハイ・クオリティのサービスを経験したこともないのに、自ら提供するサービスが行き届いたサービスであるのかどうかの判断さえできないはずだ。

かくいう私も、高橋氏の著書を読む以前から、出張の際に気になるホテルに宿泊したり、ちょっと高価かもしれない飲食店に出向いたり、AMEXのカードを所持してカード会社にイレギュラーな依頼をしたり、できるだけ高品質と言われている様々なサービスを経験しようとしてきたのも、ここで述べていることを目的にもしてのことであることを明かしておく。

高橋氏の著書の第3章には、現場で起こった様々な出来事について、氏がスタッフに向けて長文メールを送った内容が掲載されている。

このことは、サービスを高めていこうとするには、コトラー的なマーケティングのフレームワークばかりに頼ろうとすることは間違いであって、「状況論」的な言葉でしか語れないことを意味している。

言い換えると、要素還元主義的・演繹的・論文的な言説では全く歯が立たず、全体論的・関係論的でありながらフィールドワーク的・小説的でもあり、時には断章・メタファー・キーワードでしかないような言葉の数々でしか語っていくことができないものなのである。

先日行った「インターネット・マーケティング」の講義では、「顧客ロイヤルティ」「ブランド経験」なる言葉を中心として議論がすすんだが、いくら議論してみてもスッポリと抜け落ちたものを感じざるをえなかった。

私が最後に「感動」というキーワードを付加することで、ようやくその抜け落ちたものにスポットが当たってきたとの感を抱くことができたのであった。
ん? ところでインターネットの活用はって? WEB2.0は?

そんなものはお客さまにとって便利で快適なものを提供できるというのであれば使えばよいというだけのこと。

その前にどれほどクオリティの高いサービスを提供できているかの見直しを行うべし。
まあ何はともあれ、まずはカシータでサービスを体験するところから始めてみるべし。(完)

【サイト内関連記事】
愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(1/4)
愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(2/4)
愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(3/4)

【参考情報】
リゾートレストラン「カシータ」
高橋滋『I am a man.―チームワークと顧客第一主義がポイント!奇跡のレストラン「カシータ」の作り方』
DVD『あなたにできないことはない!〜伝説を生み出す「愛と感動のレストラン」を創った男の人生哲学〜』
アマンリゾート
ANA国際線 ファーストクラス
AMEXゴールドカード・プラチナカード
リッツ・カールトン バリ リゾート&スパ

2006/4/16 日曜日

愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(3/4)

Filed under: マーケティング — 咲本 @ 20:52:50

さて、料理が次から次と登場し、中でも久しぶりに食べるオマールエビがシンプルな味付けで個人的にはとてもおいしかったが、そうこうしているところに店長さんが挨拶にお越しになった。

名刺を差し出されたので、それにつられるように私も名刺を差し出した。

実はこのことが後になってのサービスに反映されることになる。

それにしてもお店側には取り扱いが難しそうな客だとうつっていたかもしれない。

さりげなく「私どもをどのようにしてお知りになりましたか?」と質問されたので、「オーナーのお話になっているDVDをある方からお借りしたり、カシータさんのWEBを拝見したり、検索してブログでの評判を見たりした結果、是非サービスを体験したくなりまして」と言ってしまったから。(笑)

食事中にはYさんとも様々なことを話し、それをいちいちここには書けないが、レストランに来る前に私が観てきた国立劇場でのピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団の公演については、感動したがゆえにいろいろと話していたことだけは間違いない。
あとで気がつけば、テーブルのそばに下の写真のような公演パンフレットが置きっぱなしになってしまっていた。

ピナ・バウシュ

料理は全て終わりましたということで、コーヒーを持ってきてもらうことにした。

そうしたところ、コーヒーに加えて、スタッフの方が‘Welcome to Casita!!’と言われながら下記のように飾り付けされたデザートをお持ちいただいたのだ!

カシータ2

白いプレート上にはデザートの盛りつけ以外に、チョコレートによって

  • Welcome to Casita!!
  • 私達客2人の名前
  • 時計台ネットとそのロゴマーク
  • ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団

といった文字が書かれていて、

ピナ・バウシュの舞踊団による公演の模様をプリントアウトした写真画像が貼り付けられていたのだ!

時計台ネットとそのマークは、さきほど店長さんと名刺交換した時に入手された情報を即反映させたもの。
ピナ・バウシュについては、おそらくテーブルそばに出しっぱなしにしていたパンフレットの情報と、店内に入ってすぐスタッフさんと公演の模様を話していたことから得られたもの。

あくまでも想像ではあるが、京都から東京へと公演を観に来た私にとっては、この体験が本日の貴重な思い出であろうから、このカシータの思い出と共に大切にしまっておいてもらいたいとの思いを表していただいたのではなかろうか。

この判断を現場を観察されながら、ピナ・バウシュの公演を大きくプレートで取り上げようと判断され、おそらくネットで大急ぎで関連画像を探し出されたのだろう。
そして複数のスタッフの情報をうまく集約させていかれたわけだ。

最後の最後になって出すデザートに、客ごとに違った状況を的確に反映させたものを作り出して提供するとは、これはマニュアルでなんとかできる領域を完全に超えたサービスだ。

毎日数組の客だけを相手にしてサービスを提供するのであれば、頑張ればできなくもないと思われるかもしれないが、カシータの場合には130坪ものスペースが毎日予約で満員となる数をさばいているのである。

どこかにある安物の居酒屋のように、忙しそうなスタッフの素振りばかりが目立ち、注文もロクに聞いてもらえないというどころか、担当らしいスタッフさん以外からも名前でお声掛けいただける上に、複数のスタッフさんから公演はどうだったかの質問が出るほど、私のことをわかってくれている。

スタッフのみなさんは、誰もが気持ちの良い笑顔で接してくださる。

メニュー用紙に書かれている“わがままなお客様こそレストランの楽しみ方を知る上級者である”との文言は、客からの無理難題に喜んでこたえようと本気で考えている証拠なのであろう。

そばのテーブルで食事していた中年男性グループには、お店所有のポラロイドカメラで記念撮影をされていた。
おそらく何らかの意味で特別な日であったのだろう。

このように行き届いた感動すら誘うサービスを、どうして行っていくことができるのだろうか?

私はカシータの内実について少しでも多くを知りたくなった。(続く)

【サイト内関連ページ】
愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(1/4)
愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(2/4)
愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(4/4)

2006/4/15 土曜日

愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(2/4)

Filed under: マーケティング — 咲本 @ 20:41:19

そうこうしているうちに本日の相方Yさんがお店に到着。
Yさんも私と同じく初めてのお店であったが、いきなり名前で呼ばれることに驚いていた。

カシータ5

私の名前の書かれたメニューをほどいて見てみた。

1ページ目はお店のご案内、料理メニューは2ページ目以降。

ちなみに1ページ目のお店ご案内の内容についてご紹介すると、

お店のテーマが「アジアの高級リゾート」

130坪ものスペースは5つのコンセプトにより空間分けされていて、

  • シェフと相談しながら、旬の食材を自分でアレンジできる“Charcoal Bar”
  • 高いホスピタリティを御堪能いただける“The Main Dining”
  • どんなパーティの御要望にもお応えできる“The Executive dining”
  • 夕日をみながら食前酒をお楽しみいただける“The Deck lounge”
  • 星空を見ながら食後の余韻を満喫いただける“The Terrace”

と書かれている。

これだけであると「なんだか気取りやがって」という、斜に構える向きがいらっしゃるかもしれないが、この記述に続いて

何かございましたら、下記のスタッフを始め
お近くのスタッフにお気軽にお申し付けください。

として、General Manager、Executive Chief、Floor Manager、Chief Concierge、Maitre d’hotel、Lounge Managerの名前が堂々と記載されている。

これも私の名前を印刷したものを用意するくらいだから、おそらくその日によって若干変わるスタッフ体制を反映させていることなのであろう。
スタッフ名でお呼びして欠勤していたのではガッカリするだろうから。
ちなみに、電話した際に予約を受け付けてくださったのは、記憶していたお名前からChief Conciergeの女性であることが伺い知れるのであった。
また、私達に用意いただいた席が “The Main Dining”と呼ばれるところであった。

さて、食事の中味は予約していなかったのでどうしようかと一瞬思ったが、相方Yさんも脂っこいものが苦手だということで、10,000円のコース料理にしてコースメニューの中味に脂っこいものが入らないようにお願いした。
それ以外もYさんの要望として貝類が混ざらないようにも付け加えさせていただいた。

コース料理にしたのは、単品の中から選ぶのが邪魔くさいからであって、大した意味はなかったのだが、注文後にコース料理の記載内容を見てみたところ、

  • オーシャントラウトと帆立貝のタルタル
  • フォアグラのキャラメルソテー

の2品が私達の要望に引っかかっていたにもかかわらず、ほかにもダメなものがないか十分に確認を求められつつ快く引き受けてくださった。

料理のコースは決して超高級といえるほど高いものではなく、単品で注文するとさらに安くすることも可能。

ちなみにではあるが、この日のコースメニューをご紹介すると、

8,400yen A-muse:渡り蟹のビスクスープ、Cold Appetizer:旬の鮮魚のカルパッチョ、Hot Appetizer:Casita風 鴨南蛮、Fish:スコットランド産サーモンマリネのカツレツ 自家製トマトチャツネ添え、Meat:岩手県産若鶏のグリル、本日のデザート、コーヒーor紅茶

10,500yen A-muse:スプーン一杯の幸福、Cold Appetizer:オーシャントラウトと帆立貝のタルタル、Hot Appetizer:フォアグラのキャラメルソテー、Fish:旬の白身魚 お魚に合った調理法で、Meat:熊本県産黒毛和牛フィレ肉のグリエ 筍の田楽添え、本日のデザート、コーヒーor紅茶

12,600yen A-muse:スプーン一杯の幸福&“Chef”の花嫁、Cold Appetizer:鮮魚のカルパッチョ 春菊の中華風サラダと共に、Hot Appetizer:フォアグラのキャラメルソテー 生ハムメロン添え、Fish:オマール海老のシンプルグリエ、Meat:熊本県産黒毛和牛フィレ肉 美味しい所だけ、本日のデザート、コーヒーor紅茶

これに職人伊藤による“和”のコースというものが加わる。(10,500yen)
寿司 八寸:寿司三貫と、春の和前菜三種 盛り合わせ
刺身:平目の巾着、三色包み アボカドと長芋添え
煮物:金目鯛と野菜の焚合せ
油物:あいなめの骨切り 唐揚げ 枝豆あん掛け
御飯物:ひつまぶし風 うなぎの石焼ビビンバ
甘味:あずき白玉 練乳掛け

ナプキンを広げてみてビックリがひとつ。

これには名前のイニシャル2文字の刺繍が入っているのだ。

私は予約の際に、オプションサービスとして入れるかどうかの質問があったから、注文通りと思っただけだったが、相方はかなり驚いていた模様。(続く)

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愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(1/4)
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愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(1/4)

Filed under: マーケティング — 咲本 @ 16:35:11

小雨のパラつく午後10時の表参道。
私は青山学院大学前にあるレストラン「カシータ」はどこかと探していた。

「確かこのあたりのビルであるはずだが。。。」

ふと近くにいたスーツ姿の男性が「どちらかお探しでしょうか?」と声をかけてくれたので、「カシータというお店を探しているのですが」とこたえたところ、「カシータはこちらでございます。ご案内いたします。」と、その男性がエレベータのほうに私を誘導し始めた。

実はこの男性はカシータの誘導担当スタッフだったのであった。

インカムを装着した彼はさりげなくお店のほうにも連絡したようで、3階でエレベータの扉が開くと、スタッフ数名が「咲本さま、いらっしゃいませ!カシータへようこそ!」と笑顔でお出迎えいただいた。

少なくともお客様に接するスタッフ全員がインカムを装着しているようだったので、おそらく手の空けられるスタッフと私の一応の接客担当者がすぐにアクションを起こせるようになっているのであった。

客席にご案内され、テーブルに着いてビックリ。

そこにはランプのところに客の名前のはいった手書きのウェルカムカード、テーブル前方のナプキン上には名前入りのメニューが置かれていた。(下の写真2枚)
カシータ1

カシータ3

「予約席」「Reserved」なる表示がなされているのをよく見かけるが、考えてみればこのような表示は「ここは予約が入っている席なのだから、あたたたち予約の入れていない客が勝手に座ったりしないでね」くらいの意味合いしかない。

予約した客をねぎらう気持ちを表現したいのなら、お客様に対してウェルカムの気持ちを表現したものでテーブルまわりを演出したほうがいいに決まっている。

また、大きな立て看板みたいなものに名前を書かれたもので表示されたとすると、これもほかの客の手前恥ずかしく、メニューへの名前表示やランプのところにある小さなウェルカムカードくらいが、その表現としてはちょうどいい按配なのではなかろうか。

相方がまだ到着していなかったこともあって、スタッフの一人が話しかけてきた。

「国立劇場の公演はいかがでしたか?」

私が電話で予約を入れた際、「19:00から始まる国立劇場での舞踊団の公演を観たあとでお店に向かうので、はっきりわからないけれど22:00頃かなあ」と言っていたことがスタッフ全員に伝わっているのであった。

「私も楽器をやっていたので、クラシック音楽なんかにも興味がありましてねえ。ストラヴィンスキーをされているのでしたら、面白そうですから仕事を休んで観にいこうかな。」

そんな会話をスタッフさんと交わすことができた。

ちなみにこのお店は約130坪の広さがあり、ほぼ全ての客が予約だけで埋まるわけなので、私だけを特別扱いにして名前で呼んだり演出したりしているわけではなく、私がこのあとにも受けるサービス水準をすべての客に施しているのである。

私のことについては、

  • 京都から来た客
  • 国立劇場の公演を観に来た
  • 同伴する客の名前が○○
  • タバコを吸う客だけど禁煙席しか空きがなかったので渋々了承している

ここまでの情報が予約した時の会話内容から得られるものであるのだが、 それらのことを全スタッフが完全に理解していた模様。
いったい毎日何十組もの予約客を把握していけるものだなあと感心する。

これだけでも他店にはないサービスとなるのであろうが、ここまではほんの序章に過ぎなかった。(続く)

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