ホテルモントレのブルー・オーシャン戦略2/2
そもそもリゾートホテルのような豪華でオシャレな雰囲気がいくら好きであったとしても、若い女性でいつも高級ホテルに泊まれるだけの経済的余裕を 持ってい る人達は例外的な存在であって、価格がこなれていながら高級な雰囲気を持っているホテルという切り口は、競争のない世界、すなわちW・チャン・キムのいう「ブルーオーシャン戦略」の 実践ともいえるのであった。
後追い的にフレームワークに当てはめることなんて大嫌いであり(笑)、このホテル自体ブルーオーシャン戦略なる本が出るはるか前に創業しているわけなのであるが、この戦略的考え方をご存知ない方のためにここで特別に事例として説明してあげよう。
ブルーオーシャンとは競争の激しい血みどろの戦いの海=レッド・オーシャンに対して、競争のない未開拓の市場を創造してそこでビジネスを生み出していこうとする戦略を指す。
ブルー・オーシャンを創造するには下記の「6つのパス(the six paths)」と呼ばれるものからアイデアを出していけばよい。
- (業界内ではなく)代替産業に学ぶ
- 業界内のほかの戦略グループから学ぶ
- 買い手グループを定義し直す
- (業界の枠組みを超えて)補完財や補完サービスを見渡す
- 機能志向と感性志向を切り替える
- トレンドの先行きを見通す
これら「6つのパス」から発想していってホテルモントレの方向を見いだそうとした場合には、それぞれ次のようになる。
- 日本人が憧れそうな西欧の建物に学ぶ
- 老舗ブランドではなくてもインパクトとサプライズからリピーターを獲得しているラブホテルの経営から学ぶ、または女性の憧れる高級リゾートホテルから学ぶ
- 男性サラリーマンではなく20代〜40代くらいの女性をターゲットとして、宿泊代が無理なく手が出る価格帯でありながら「オシャレでかわいい」と思えるホテル、あるいは比較的安価でありながら誘った女性に「オシャレでかわいい」との感想を持ってもらいたい男性。
- 建築デザイン、インテリアデザイン、アメニティと水回り
- 必要最小限の設備による宿泊代の安さといった機能志向から、建物・内装のデザインセンス、設備の魅力といった感性志向へ
- 思い出に残るような宿泊体験に価値を求めるニーズが高まるであろう
と、当たらずとも遠からずだと思えるように独断と偏見で決めてしまうことにする。
そして「戦略キャンバス」と呼ばれる、あるいくつかの切り口の業界平均をグラフ化したものに、これらホテルモントレの展開を反映させてみると次のようになる。

「戦略キャンバス」とはこのようなものを指す。
(グラフでの評価がかなり失礼であったり事実に反するという思う方がいらっしゃるかもしれないが、ここで言いたいのはこのグラフの真実性ではなく、「戦略キャンバス」がいかなるものか説明したいだけである。)
グラフ化すると一目瞭然となることがある。
それはホテルモントレが業界平均のグラフとは大きく異なった特徴を示していることである。
「部屋の広さ」や「エントランスとロビーの広さ」などはビジネスホテルのような低い値を示しているが、「建物外観のデザイン性」では高級シティホテ ルを追い抜き、「個性的な内装による楽しさや意外性」となるとホテルモントレ以外では評価することさえ不能な尺度となっている。
通常のホテルであれば、ホテルモントレ以外のどちらかのグラフ付近での競争となるが、ホテルモントレだけは競争のない独自路線を開拓していくということになる。
このような独自路線を築いていく戦略のことを「ブルー・オーシャン戦略」と呼ばれているのである。
ところでブルー・オーシャン戦略を創造するのに欠かせない考え方がもうひとつある。
それは「アクション・マトリクス(action matrix)と呼ばれるものだ。
この事例でアクション・マトリクスを示すと次のようになる。

付加価値を求めるあまりよくありがちなのは、次から次へとコストをかけてしまい、結果的に戦略キャンバスの「高級シティホテル」のグラフに限りなく近くなってしまうことである。
確かに付加価値をつけていけばビジネスホテルのグラフから離れていくことにはなるが、今度は高級シティホテルでの熾烈な競争が待っているのである。
従ってただやみくもに付加価値をつけようとするのとは違い、アクション・マトリクスにみられるように「取り除く」と「減らす」という部分によってメリハリをつけて特徴をわかりやすくすることがブルー・オーシャン戦略ではたいへん重要となってくるのだ。
この点があるからこそ、高級シティホテルには存在しない「個性的な内装による楽しさや意外性」といった特徴を持っているにもかかわらず、価格競争に巻き込まれることのない独自市場での顧客開拓が可能となる。
書籍では優れた戦略について次のように書かれている。
優れたブルー・オーシャン戦略の価値曲線には、(1)メリハリ、(2)高い独自性、(3)訴求力のあるキャッチフレーズ、という三つの特徴がある。 こうした特徴に欠けた戦略は、月並みでパンチが弱く、伝えにくいうえ、高コストである。新しい価値曲線を描くために四つのアクションをとり、右記三つの特徴を備えた戦略プロフィールを実現すべきである。これらの特徴を備えているかどうかが、ブルー・オーシャン構想が商業ベースで成り立つかどうかを推し量る、最初の判断基準となる。
ここではホテルモントレ銀座に一度宿泊した経験だけから、ブルー・オーシャン戦略に強引に当てはめてみて後追い的な説明をしてみた。
が、20年のうちにホテルを15箇所にまで増やしてきていることからすれば、このような展開が当たって業績を上げていっているのだろうと予想しうる。
この企業の歴史をふりかえると、1936年神戸で開業した繊維製品卸小売業「丸糸呉服店」に行き着く。
1948年には質屋業を始め、こちらが発展していって現在のアコムとなっている。
一方、金融とは違った流れとしては不動産賃貸業を中核としてマルイト・グループとして発展していき、そちらが現在のホテル事業にまでなってきている。
本来であれば不動産賃貸業から普通に発想してホテル事業に取り組もうとすれば、低価格ビジネスホテルチェーン展開となりそうなものの、ひと味違った個性的なホテル展開となっており、「このような発想はそのようにして導かれたのだろうか?」と、どうしてもひっかかってしまい、ついにはこのようなコラムを書いている次第である。
現在であれば後追い的にはブルー・オーシャン戦略で説明できなくもないが、本当のところはどうなのだろうか?
いつか直接インタビューでもする機会がない限り、真相はずっと闇の中のままなのかもしれない。















