2006/5/13 土曜日

ホテルモントレのブルー・オーシャン戦略2/2

Filed under: 経営戦略 — 咲本 @ 9:20:22

そもそもリゾートホテルのような豪華でオシャレな雰囲気がいくら好きであったとしても、若い女性でいつも高級ホテルに泊まれるだけの経済的余裕を 持ってい る人達は例外的な存在であって、価格がこなれていながら高級な雰囲気を持っているホテルという切り口は、競争のない世界、すなわちW・チャン・キムのいう「ブルーオーシャン戦略」の 実践ともいえるのであった。

後追い的にフレームワークに当てはめることなんて大嫌いであり(笑)、このホテル自体ブルーオーシャン戦略なる本が出るはるか前に創業しているわけなのであるが、この戦略的考え方をご存知ない方のためにここで特別に事例として説明してあげよう。

ブルーオーシャンとは競争の激しい血みどろの戦いの海=レッド・オーシャンに対して、競争のない未開拓の市場を創造してそこでビジネスを生み出していこうとする戦略を指す。

ブルー・オーシャンを創造するには下記の「6つのパス(the six paths)」と呼ばれるものからアイデアを出していけばよい。

  1. (業界内ではなく)代替産業に学ぶ
  2. 業界内のほかの戦略グループから学ぶ
  3. 買い手グループを定義し直す
  4. (業界の枠組みを超えて)補完財や補完サービスを見渡す
  5. 機能志向と感性志向を切り替える
  6. トレンドの先行きを見通す

これら「6つのパス」から発想していってホテルモントレの方向を見いだそうとした場合には、それぞれ次のようになる。

  1. 日本人が憧れそうな西欧の建物に学ぶ
  2. 老舗ブランドではなくてもインパクトとサプライズからリピーターを獲得しているラブホテルの経営から学ぶ、または女性の憧れる高級リゾートホテルから学ぶ
  3. 男性サラリーマンではなく20代〜40代くらいの女性をターゲットとして、宿泊代が無理なく手が出る価格帯でありながら「オシャレでかわいい」と思えるホテル、あるいは比較的安価でありながら誘った女性に「オシャレでかわいい」との感想を持ってもらいたい男性。
  4. 建築デザイン、インテリアデザイン、アメニティと水回り
  5. 必要最小限の設備による宿泊代の安さといった機能志向から、建物・内装のデザインセンス、設備の魅力といった感性志向へ
  6. 思い出に残るような宿泊体験に価値を求めるニーズが高まるであろう

と、当たらずとも遠からずだと思えるように独断と偏見で決めてしまうことにする。

そして「戦略キャンバス」と呼ばれる、あるいくつかの切り口の業界平均をグラフ化したものに、これらホテルモントレの展開を反映させてみると次のようになる。

戦略キャンバス
「戦略キャンバス」とはこのようなものを指す。
(グラフでの評価がかなり失礼であったり事実に反するという思う方がいらっしゃるかもしれないが、ここで言いたいのはこのグラフの真実性ではなく、「戦略キャンバス」がいかなるものか説明したいだけである。)

グラフ化すると一目瞭然となることがある。

それはホテルモントレが業界平均のグラフとは大きく異なった特徴を示していることである。

「部屋の広さ」や「エントランスとロビーの広さ」などはビジネスホテルのような低い値を示しているが、「建物外観のデザイン性」では高級シティホテ ルを追い抜き、「個性的な内装による楽しさや意外性」となるとホテルモントレ以外では評価することさえ不能な尺度となっている。

通常のホテルであれば、ホテルモントレ以外のどちらかのグラフ付近での競争となるが、ホテルモントレだけは競争のない独自路線を開拓していくということになる。

このような独自路線を築いていく戦略のことを「ブルー・オーシャン戦略」と呼ばれているのである。

ところでブルー・オーシャン戦略を創造するのに欠かせない考え方がもうひとつある。

それは「アクション・マトリクス(action matrix)と呼ばれるものだ。

この事例でアクション・マトリクスを示すと次のようになる。

アクション・マトリクス

付加価値を求めるあまりよくありがちなのは、次から次へとコストをかけてしまい、結果的に戦略キャンバスの「高級シティホテル」のグラフに限りなく近くなってしまうことである。

確かに付加価値をつけていけばビジネスホテルのグラフから離れていくことにはなるが、今度は高級シティホテルでの熾烈な競争が待っているのである。

従ってただやみくもに付加価値をつけようとするのとは違い、アクション・マトリクスにみられるように「取り除く」と「減らす」という部分によってメリハリをつけて特徴をわかりやすくすることがブルー・オーシャン戦略ではたいへん重要となってくるのだ。

この点があるからこそ、高級シティホテルには存在しない「個性的な内装による楽しさや意外性」といった特徴を持っているにもかかわらず、価格競争に巻き込まれることのない独自市場での顧客開拓が可能となる。
書籍では優れた戦略について次のように書かれている。

優れたブルー・オーシャン戦略の価値曲線には、(1)メリハリ、(2)高い独自性、(3)訴求力のあるキャッチフレーズ、という三つの特徴がある。 こうした特徴に欠けた戦略は、月並みでパンチが弱く、伝えにくいうえ、高コストである。新しい価値曲線を描くために四つのアクションをとり、右記三つの特徴を備えた戦略プロフィールを実現すべきである。これらの特徴を備えているかどうかが、ブルー・オーシャン構想が商業ベースで成り立つかどうかを推し量る、最初の判断基準となる。

ここではホテルモントレ銀座に一度宿泊した経験だけから、ブルー・オーシャン戦略に強引に当てはめてみて後追い的な説明をしてみた。

が、20年のうちにホテルを15箇所にまで増やしてきていることからすれば、このような展開が当たって業績を上げていっているのだろうと予想しうる。

この企業の歴史をふりかえると、1936年神戸で開業した繊維製品卸小売業「丸糸呉服店」に行き着く。
1948年には質屋業を始め、こちらが発展していって現在のアコムとなっている。
一方、金融とは違った流れとしては不動産賃貸業を中核としてマルイト・グループとして発展していき、そちらが現在のホテル事業にまでなってきている。

本来であれば不動産賃貸業から普通に発想してホテル事業に取り組もうとすれば、低価格ビジネスホテルチェーン展開となりそうなものの、ひと味違った個性的なホテル展開となっており、「このような発想はそのようにして導かれたのだろうか?」と、どうしてもひっかかってしまい、ついにはこのようなコラムを書いている次第である。
現在であれば後追い的にはブルー・オーシャン戦略で説明できなくもないが、本当のところはどうなのだろうか?
いつか直接インタビューでもする機会がない限り、真相はずっと闇の中のままなのかもしれない。

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ホテルモントレのブルー・オーシャン戦略1/2

Filed under: 経営戦略 — 咲本 @ 9:19:07

5月8日の東京出張の際に宿泊したホテルモントレ銀座のことについて忘れてしまわないうちにメモしておくことにする。

創業から20年にして現在全国15箇所に施設を持つまでに成長し、いずれも個性的な西欧風の建物であるこのホテルグループのことが気になっていたので、この機会に宿泊してみることにした。

泊まったのはホテルモントレ銀座で有楽町駅から銀座柳通りをまっすぐ数分歩いたところにフランスのアパルトマンをイメージされたこの小洒落た外観を持つホテルがあった。

ホテルモントレ銀座外観

モントレグループのホテルは全て西欧のどこかの国の建物をイメージされたコンセプトで作られるので、一般的なビジネスホテルとは明らかに一線を画した雰囲気を持っている。

これは建物内部や客室にまで一貫していて、旅が非日常的な体験であるとするならば、その演出をすることに大いに貢献してくれるともいえる。

例えばエレベータの階数表示も針が動いて数字を指し示すようなものとなっていて、そこにうっすらと聞こえてくるBGMはフランスの古い音楽であったりする。

客室はツインの角部屋でデラックスツインとの扱いだったため一般的な客室よりは少し広めのところに宿泊することとなった。(おそらく25平米くらい)
通常のシングルルームとなるとかなり狭いらしいので、そんなことはあとでわかったのであるがラッキーであった。

ホテルモントレ客室1

ホテルモントレ客室2

写真のように客室内も壁の色や窓の形、家具デザインなど、ひと味違った雰囲気を持っている。

しかもデザインが西欧風といったことだけにとどまらず、以下の写真のように注目すべきところがある。

バスルーム

まず浴槽が前日泊まったホテルニューオータニとほぼ大きさが同じで、一般的なビジネスホテルにはない広さであるから、十分に足を伸ばして入ることができる。
ちなみに浴槽の材質はプラスチックではなくて陶器でできており、まわりもタイル貼りなので高級感がある。

となりの化粧室部分も大きく高級感がある。
その化粧室に置かれているアメニティも、ビジネスホテルとは思えないほどの充実ぶりで見た目の色合いもきれいな感じがする。
とりわけ女性にはウケがよいことだろう。
アメニティ

ひとつひとつをよく見ると決して高級なものではないのだが、見るからにかわいらしく洗練されている。

そのほか、西欧風のイメージを壊しかねない浴衣は用意されておらず、その代わりにパジャマとバスローブが置かれている。
ビジネスホテルには普通はバスローブまで用意されていることはないのでは?

バスローブとパジャマ

あと、写真ではわかりにくいのであるが、床はこげ茶色のフローリングとなっているので、それだけでも一般的なホテルとは随分雰囲気が違って感じる。

ホテル内の飲食店としてはフランス料理店があり、個室が用意されていたりランチとディナーのコース料理が楽しめたりと、こういったところまで徹底してフランス風をとおしている。

もちろんインターネット環境も全室用意されている。

なかなか他のホテルではないスタイルだ。

このとても気になるホテルについて私なりに考えてみることにした。

まず普段ビジネスホテルに宿泊する女性客層に対してリゾートホテルのコンセプトを取り入れたホテルの雰囲気を味わってもらえるようにする。
まあ簡単にいえば女性が「まあ、かわいくてオシャレなホテル!」と喜んでくれることを目指すということだ。

格好をつけた言い方(失礼!)をホテルモントレグループの記述から引用すると、

■ホテルモントレグループの信条
ホテルモントレは1986年の開業以来各地に個性豊かなホテルを展開して参りました。建物のコンセプトは、世界各地の歴史や風土を元に数々のヒントを得てデザインし、有名な都市景観賞など数多くの賞をいただいております。また、インテリアもアメニティー性を重んじ、常にやすらぎの空間作りに心がけ、ロマンチシズムや、夢のある雰囲気が、他のホテルにないモントレスタイルだと言われております。そして、常に心地よい、ゆったりとしたひとときを楽しんでいただけるよう真心のこもったサービスを心がけ、お泊りいただいたお客様はもとより、宴会などに、ご利用いただいた皆様からも好評を得るべく努力しております。 私達は、ホテルを通じて生活の喜びと潤いのあるサービスを提供し、地域社会に貢献出来ることをモットーに進んで参ります。

となる。

しかしリゾートホテル並のクオリティを追求してビジネスホテル並の価格(8,000円〜18,000円くらいまで)で提供すれば採算が取れないので、内装や装備は表向きには豪華に見えるように振る舞いながら、中身は徹底的にコストダウンをはかっているのだ。
ルームサービスを充実させるわけにもいかないので、そちらも省略。

豪華な異質空間との演出に貢献するもの:フローリングの床、バスローブ、浴槽の大きさ、アメニティのかわいらしさと種類の多さ、家具、絵、暖かみのある自然色の壁の色、窓の形・・・

演出する中で工夫次第で安く上がるもの: フローリングの床、バスローブ、アメニティのかわいらしさと種類の多さ、家具、絵、暖かみのある自然色の壁の色、窓の形・・・

と、センスと工夫でコスト的にはかなり絞っていける余地が実は大いにあるわけである。

余談ではあるが、センスと工夫の余地ということでいえば、ホテルのWEBサイトもFlashを多用してそれなりの雰囲気を演出していこうとされていることがうかがえる。
http://www.hotelmonterey.co.jp/

考えてみれば、ラブホテルを経営するつもりになるのであれば、建物や客室についていかに豪華で魅力的なものにしようかと知恵を絞りながらも、コストがかさまないようにする工夫の余地はないだろうかとなるはず。

この発想をビジネスホテルの分野でフル活用すれば、このホテルのようなものになるのだろう。

では一般的なビジネスホテルがなぜこのような面白味のあるものとはならないのだろうか?

それは未だに

ビジネスホテル→安さが求められる→安物ワンルーム賃貸マンションの発想でホテルを建てる→バスルールはあるだけで十分でしょ→アメニティなど「カット」できそうなところは全てカット→要はいかにコストカットするか「だけ」を徹底的に考えていく

ということにしかならないからだろう。

そのようなニーズも確かに存在はするが、これでは宿泊料の安さだけの激しい競争に巻き込まれることにしかならず、あとになって慌ててそれではダメだと気づいていかにも貧乏くさい付加サービスを始めてみたところで、客側には全く魅力的に映らないがゆえに大した効果も見込めず、その結果、「激安」と「貧乏くさい付加サービス」とを繰り返し続ける無限ループに陥ってしまったりするのである。

そもそもリゾートホテルのような豪華でオシャレな雰囲気がいくら好きであったとしても、若い女性でいつも高級ホテルに泊まれるだけの経済的余裕を 持ってい る人達は例外的な存在であって、価格がこなれていながら高級な雰囲気を持っているホテルという切り口は、競争のない世界、すなわちW・チャン・キムのいう「ブルーオーシャン戦略」の実践ともいえるものなのであった。

「ホテルモントレのブルー・オーシャン戦略2/2」に続く

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