高台寺庭師の戦略クラフティング
『ビジネスにマーケティング☆を走らせよう!』に掲載
http://www.mankai.biz/
「高台寺庭師の戦略クラフティング」
マーケティング・コンサルタント 咲本 勝巳
みなさん、こんにちは!咲本です。
今回はこのコラムで三度目のご紹介となる、高台寺公認庭師北山さんを事例に、ミンツバーグが提唱する「戦略クラフティング」の考え方をご紹介させていただこうと思います。
この「クラフト」という視点は、以前、「リーダーシップのトライアングル」として、リーダーシップには、アート、サイエンス、クラフト(工芸)の三要素があり、成功しているリーダーに共通しているのは、このうちの2つに秀でているという説をご紹介しました。
まあ、そのようなイロイロな意味を兼ねた続編です(笑)
▼ アートとサイエンスの中間がクラフト
まずは、復習を兼ねて始めましょう。
戦略におけるアートの側面とは、知らず知らずのうちに生まれてくる、あるいは偶然生まれてくるひらめきのようなものを指します。
これは純粋な「創発戦略」と言い換えることができます。
一方で、純粋に思考・分析からプランニングされた戦略を策定するという側面がサイエンスです。
クラフト的側面とは、ちょうどその中間に当たります。
単なるひらめきだけではなく、経験に裏打ちされた暗黙知が働きます。
思考することだけに没頭するのではなく、思考と同時に作品に手も動いているというものです。
では、もう少し具体的に戦略クラフティングがどんなものなのか、庭師北山さんを事例にご説明させていただきましょう。
▼ 庭師北山氏の戦略クラフティング
彼は春と秋に行われる高台寺夜の特別拝観に伴い、ライトアップのプロデュースを行われています。
http://www.crafting.jp/blog/project_management/
北山氏は、庭師として植木と石について精通されているだけでなく、灯りについても、過去のライトアップの経験で深い知識を持たれています。
毎回お寺としては異例のアバンギャルドなライトアップでは、アクリル板、着色されたガラス棒、素焼きの器など、様々なものを利用されるのですが、それの制作を職人さんに依頼された段階では、ライトアップのプランニングができていません。
つまり、ごく大きなコンセプト(哲学に近いかもしれません)を職人さんに伝えるだけで、あとは職人さんの創意工夫にお任せされています。
普通、大企業によく見受けられるサイエンス的側面を重視している場合では、事前にプランニングし、戦略策定してから行動に出るはずなのでしょうが、彼の場合、それが当てはまりません。
この姿勢を、ミンツバーグは「アンブレラ戦略」と呼んでいます。
ミンツバーグの発言を引用しますと、
まずシニア・マネジャーたちが大まかなガイドラインを設定する。たとえば、最新技術を用いて高マージンの商品だけを製造する、あるいは既存技術を用いて製造できる商品を優先するといった類のものだ。そして、その細目については部下たちに任せる。
このアンブレラ戦略は、プランニング(上層部からのガイドライン)だけでなく、創発のプロセス(具体的なプランの作成)も含んでいる。加えて、戦略が途中で発展するように意図的に管理していくという点で、計画的に創発を促すアプローチと呼べる。
つまり、ガイドラインを設定しつつ、未確定な余地を残し、その点に依頼された側の創意工夫をさせるように促していくことで、当初依頼した時点では予想だにしなかったような、開いたカサのように大きな拡がりを見せ、発展をしていく戦略です。
依頼したものが出来上がった段階、例えば、色のついたガラス棒が納品された段階でも、まだどんなライトアップ作品となるのかが決まっていません。
そこから、実際にライトを当ててみて、どのような光り方をするのか確かめてみながら、ガラス棒の配置の仕方や、色の違ったガラス棒の組合わせ方、光の当てる角度、光の色、などなど、様々な事柄について、試してみながらの試行錯誤が始まります。
この試行錯誤は通常、記者発表直前の段階まで、念入りに行われます。
光の当て方をRGB3色の発光ダイオードを数箇所配置し、その発光具合を数十パターン、パソコンで制御して変化させていくわけですので、たいへんな手間です。
この姿こそ、戦略クラフティングの世界です。
ミンツバーグの説明を拝借しますと、
ある日は考え、別の日は仕事に専念するという工芸家はいない。工芸家の頭は
その指とつながっている。にもかかわらず、大企業では頭脳と指の動きを分離しようとする。その結果、頭脳と指の間に不可欠なフィードバック・ループを断ち切ってしまう。
これは、悪い意味でサイエンスの側面だけが突出する場合のことを指摘しているのでしょう。
ついでに脱線しておきますと、マネジメントを語る古典的な経営学の大家も、マネジャーの仕事に無知または大きな誤解をしたまま、マネジメントを語っている場合が彼の指摘でたいへん多いことがわかります。
例えば、経営者の仕事について説明される際によく使われる「POSDCORB」。
P:Planning(計画化)、O:Organizing(組織化)、S:Staffing(人員配置)、D:Directing(指揮)、C:Coordinating(調整)、R:Reporting(報告)、B:Budgeting(予算化)
これらの事柄についていくら説明されたとしても、マネジャーにとって何も役に立たず、せいぜいのところ、「われわれが無知である領域に名称をつけるのに役立」つ程度のものだったことがわかります。
役に立たないことの事例として、次のような引用がなされています。
本社販売担当重役の何人かは、計画作成を各営業所の管理活動の一つとみなしている。しかし、計画作成という活動は、分析、技術、および人間関係スキル以上のものなのだろうか。また、マネジャーは、本当に腰を落ち着けて、セールスマンの育成・監督、製品の需要予測、営業所の運営などの個別問題を関知せずに「さて、これから計画づくりをしなければならない」などと定期的に公表するものであろうか。
「山のような仕事を間断のないペース」で行っているマネジャーに、POSDCORBに
分割してひとつひとつのフレームワークについて説明されても、使えるレベルとしてのことを考えますと、あまり説得力のない場合が多いのです。
そんな知識吸収のためのセミナーが世の中に蔓延しているのも嘆かわしいです。
以上、余談です(笑)
▼ 変化の激しい時代には戦略クラフティングの視点を
過半数の大企業は、戦略策定なしのまま行動に出ることに、大きな不安感がある
のかもしれません。
しかし、これだけ世の中全体は変化の激しい時代となってくれば、プランニング
「だけ」では、難しいのではないかと思います。
つまり、それ「だけ」であれば、「これは戦略を創造する行為ではなく、既存の戦略をプログラム化し、実施させる手段なのだ。本質的にそれは、要素還元的な分析作業である」のです。
かといって、創業予定者の一部に見受けられるような、ひらめき一発で勝負というのも、特に既存企業ではどの企業でも必要な機会ごとにひらめきが出るのかという点で不安定さを感じます。
では、その「中間」に位置する「クラフティング」的な視点を得るには、何が必要となってくるのでしょうか?
実は、私個人として、ネットバブルの頃に、アイデア一発勝負のビジネスモデルが多数存在し(今でも見受けられますが)、そのようなビジネスモデルのほとんどに、クラフト的視点が見受けられなかったことに愕然とした記憶があります。
クラフト(工芸)の世界とは、
「長年来の伝統技能、わが身の献身、ディテールへの精通によって、初めて完璧さが得られる。クラフティングについて我々の心に浮かんでくるイメージは、思考や理性ではなく、むしろ長い経験や没頭、手持ちの素材への愛着、バランス感覚といったものである。形成していくプロセスと実行するプロセスとが学習を通じて融合し、その結果、独創的な戦略へとだんだんと発展していく。」
結局何が必要かと言いますと、私流にアントレプレナー・マインドについてお話した、そのマインドと、その事業における深い経験と愛着です。
http://www.crafting.jp/blog/entrepreneurship/
戦略クラフティングとは、このようなマインドを持ち、深い経験により細部にも眼の行き届く人の「プロセス」を重視した戦略なのです。
私のようなコンサルティングを行う身としては、まるで未来予測ができる超人であるかのような戦略策定を行うことには全く興味がなく、私よりもはるかに商品・サービスの知識に精通されたクライアントさんが、戦略クラフティングされる土壌が醸成され、その結果、独創的な戦略が発生していくきっかけを与えるようなことが出来た方が、はるかにコンサルティングを行った気分となるのです(笑)
なぜなら、「戦略をクラフティングする際、将来組織に甚大な影響を及ぼしかねない、かすかな非連続を察知することにチャレンジしなければならない。そのための手段やプログラムなど存在しておらず、ひたすら状況と接触し続けることでその観察力を研ぎ澄ますしかない」からです。
ここまで言えば概ねおわかりでしょうが、企業側として必要とされるのは、
「工芸家は、他人が見逃してしまうような事象を観察したり察知したりできるよう、訓練しなければならない。戦略のクラフティングにも同じことが要求される。
すなわち、何か事が起こりかけた時には、それを鋭く感知し、最大限活用できる
よう、多様な視点から観察できる能力を備えることである。」
【参考文献】
大多数 「ハーバード・ビジネス・レビュー」2003年1月号(ダイヤモンド社)
一部 ヘンリー・ミンツバーグ『マネジャーの仕事』(白桃書房)
■プロフィール
咲本 勝巳(さきもと かつみ)
eビジネス、組織論、経営戦略、創業、ベンチャー、現代思想にとても高い関心を持つマーケティングのコンサル屋。
大阪市立大学・大学院創造都市研究科アントレプレナーシップ研究分野「創業ア
ドバイザー」 http://www.gscc.osaka-cu.ac.jp/
関西ベンチャー学会 理事 http://www.kansai-venture.org/
関西SOHOデジタルコンテンツ事業協同組合 理事
http://www.kansai-soho.or.jp/
相変らず、人脈サイトorkut.comでお知り合いが増えていっているのですが、まだまだ新規登録の人達が増えていますので、最終的には200人くらいのお知り合いになるのではないかなあと予想しています。
6 digrees of separation(6次の隔たり)の議論、つまりは6クリックで世界中の人達と繋がるという話がありますが、これは大きな間違いで、劇作家のジョン・グエアがブロードウェイ上演で使い、そのヒット後に映画化されたことから普及したらしい。
社会心理学者のミルグラムがそのような研究はしていたが、「6次」ということは、決して言っていない。
実際、Webでのリンクは19次の隔たりがあるという。
そんな話が満載なのが、アルバート=ラズロ・バラバシ『新ネットワーク思考』です。
そういえば、KNN神田さんもどこかのコラムで、この本から「ベーコン指数」なるものを発見して紹介してたっけ。
私についてご興味のある方は硝子張り公開→ http://www.sakimoto.biz/
mailto:sakimoto@tokeidai.net
(2004/03/05)

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