愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(4/4)
手元にはAmazonから届いたカシータのオーナー高橋滋氏の著作、『I am a man.―チームワークと顧客第一主義がポイント!奇跡のレストラン「カシータ」の作り方』がある。
レストランは、ハードじゃないよ、ハートだよ
という、いくら建物や内装にお金をかけたって必ずしもお客さまの感動にはつながらない。むしろハート、つまりはハートーソフトー人間がお客さまの感動につながるのだとのオーナーの確信を表現している。
それとカシータの手本となり、カシータの店舗名の由来ともなる高級リゾート「アマンリゾーツ」の「アマン」=AM、いざという時の顧客対応のすばらしい「AMEX」=AM、ファーストクラスの客へのサービスが行き届いた「全日空(ANA)」=ANの3つを掛け合わせたものとなっている。
本の概要については、一読願えればすぐに理解いただけるはずなので省略する。
ここでは私なりにこのようなレストランを運営するにあたって重要となる教訓を一部本の中から挙げておくにとどめる。
- いつの場合でも自分や店の都合・決まり事よりも、お客さまの都合と喜びが最優先される。お客さまにNoといわない。
- お客さまのことを全スタッフが名前で呼べることは基本中の基本。
- いつ誰がサービスしても高水準である一定レベルを落とさない。人によってサービスが低下するようなことにならないようにする。 「日にち、テーブル、スタッフによるむらがあってはいけない」
- 直接的にお金にならない仕事でも笑顔でスピーディに対応する。
- 組織全員が個々のお客さまについて深く理解できている状況を維持するために随時、頻繁に内部コミュニケーションをはかる。
- 無料のサービスだからといって途中でやめてしまったり不親切になるくらいなら、最初からサービスは行わないこと。行うのであればいつの場合でも当然であるかのように徹底すること。
- 高額な金額を支払うお客さまほど精神的解放を求めるのであり、お客さまのわがままを喜んで実現させていただこうとのマインドが必要。
- 感動はちょっとした心配りや過去来客時の記憶を反映させた行動などスタッフの行動から生まれる。物や設備によっては感動を与えられない。
- お客さまには気持ちでよく思っているだけではなく、それを言葉や行動に表さないと伝わらない。「気持ちは、言葉に変えて、右足に乗っけてお客さまに伝える」
- お客さまにはテクニックよりも最初に真心ありき。お客さまには「フレッシュ&フレンドリー」 で。
- 「一つの感動のサービスは、たくさんのサービスの布石があってこそ。」たくさんの仕掛けを仕事として行っていないと、お客さまに気づいてもらえるのはそのごく一部だけである。
等々、列挙していくと多くのことについて学ぶことができる。
ところが、これら重要な教訓についてマーケティング的観点から整理しようとした途端、おかしなことになってくる。
それは、例えば本の帯に「世界中の学生、ビジネス・パーソンに読み継がれてきたマーケティング論のスタンダード」と銘打つフィリップ・コトラー『マーケティング原理【第9版】』をひもといてみると明らかとなる。
なぜなら、この分厚い本には上記に関係する事柄については、何一つ語られていないからである。無理に関連語句だと言い張っても「販売部隊」や「人的販売」なる言葉で語られる虚しい議論でしかないわけなのだ。
こんなことを言い出すと、学者先生やMBAホルダーの人達から「コトラーはマーケティング論を語っているのであって、サービス・マネジメントを語っているわけではない」なんていった反論が聞こえてきそうであるが、お客さまに感動を与えることが不可能な議論がマーケティングというのなら、そんなものはどうでもよろしい(笑)
マーケティングがそんなものだけであるというのも面白くないので、ここでは顧客の感動につながる(かもしれない)マーケティング手法をひとつだけご紹介しておくことにする。
それは「インタラクション・マップ」なるものである。
ごくごく簡単に説明しておくと、顧客との「コンタクト・ポイント」を全て列挙した上で、できれば簡略化したイラストなども交えながら、一連のコンタクト・ポイントを含めた流れを大きな紙一枚の図に表したものを2枚用意する。
そのひとつには、一つ一つのコンタクト・ポイントで生まれる顧客経験を記述していく。
すなわち、それぞれのコンタクト・ポイントで現状の顧客経験がいかなるものと受け取られているのだろうか、いやな気分にしているのはどういった点なのか、また喜ばれている点はどういったところかについて書き込んでいくのである。
その上で、もう一枚の図には、全体をひとつのブランド経験として俯瞰しながら、コンタクト・ポイントを理想的にしていくための改善策を記述していくのである。
これを商売経験がなかったり経験が浅かったりするコンサルタントのようにCRMなる屁理屈ばかりが目に付く言葉で片づけるのではなく、「お客さまとの絆づくり」や「快適な顧客経験の演出」と捉えて、よりよいものに改善していけばよい。
詳しくは、我がデジハリ大学院「インターネット・マーケティング」講座の教科書として採用している下記の書籍を参照していただければよい。
ドーン・イアコブッチ、ボビーJ.カルダー『統合マーケティング戦略論』
さて、話は変わってカシータのようなお店を立ち上げ、運営していくのは並大抵の努力では難しいことくらいは明白なところであろう。
このようなサービスを運営していくのには、普段から感性を磨いていくことが重要だということが高橋氏の本から伺い知れる。
すなわち、「これは素晴らしい!」というハイ・クオリティなサービスをたくさん経験することによって、サービスに関する感性は磨かれていき、その感じたサービスを自身の事業に活かすヒントになるだろうし、そもそもハイ・クオリティのサービスを経験したこともないのに、自ら提供するサービスが行き届いたサービスであるのかどうかの判断さえできないはずだ。
かくいう私も、高橋氏の著書を読む以前から、出張の際に気になるホテルに宿泊したり、ちょっと高価かもしれない飲食店に出向いたり、AMEXのカードを所持してカード会社にイレギュラーな依頼をしたり、できるだけ高品質と言われている様々なサービスを経験しようとしてきたのも、ここで述べていることを目的にもしてのことであることを明かしておく。
高橋氏の著書の第3章には、現場で起こった様々な出来事について、氏がスタッフに向けて長文メールを送った内容が掲載されている。
このことは、サービスを高めていこうとするには、コトラー的なマーケティングのフレームワークばかりに頼ろうとすることは間違いであって、「状況論」的な言葉でしか語れないことを意味している。
言い換えると、要素還元主義的・演繹的・論文的な言説では全く歯が立たず、全体論的・関係論的でありながらフィールドワーク的・小説的でもあり、時には断章・メタファー・キーワードでしかないような言葉の数々でしか語っていくことができないものなのである。
先日行った「インターネット・マーケティング」の講義では、「顧客ロイヤルティ」「ブランド経験」なる言葉を中心として議論がすすんだが、いくら議論してみてもスッポリと抜け落ちたものを感じざるをえなかった。
私が最後に「感動」というキーワードを付加することで、ようやくその抜け落ちたものにスポットが当たってきたとの感を抱くことができたのであった。
ん? ところでインターネットの活用はって? WEB2.0は?
そんなものはお客さまにとって便利で快適なものを提供できるというのであれば使えばよいというだけのこと。
その前にどれほどクオリティの高いサービスを提供できているかの見直しを行うべし。
まあ何はともあれ、まずはカシータでサービスを体験するところから始めてみるべし。(完)
【サイト内関連記事】
愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(1/4)
愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(2/4)
愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(3/4)
【参考情報】
リゾートレストラン「カシータ」
高橋滋『I am a man.―チームワークと顧客第一主義がポイント!奇跡のレストラン「カシータ」の作り方』
DVD『あなたにできないことはない!〜伝説を生み出す「愛と感動のレストラン」を創った男の人生哲学〜』
アマンリゾート
ANA国際線 ファーストクラス
AMEXゴールドカード・プラチナカード
リッツ・カールトン バリ リゾート&スパ
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愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(1/4)…
小雨のパラつく午後10時の表参道。
私は青山学院大学前にあるレストラン「カシータ」はどこかと探していた。
「確かこのあたりのビルであるはずだが。。。」
ふと近くにいたス (more…)
トラックバック by マーケティング・クラフティング — 2006/4/30 日曜日 @ 4:29:26
愛と感動のレストラン「カシータ」のホスピタリティ(2/4)…
そうこうしているうちに本日の相方Yさんがお店に到着。
Yさんも私と同じく初めてのお店であったが、いきなり名前で呼ばれることに驚いていた。
私の名前の書かれたメニューを (more…)
トラックバック by マーケティング・クラフティング — 2006/4/30 日曜日 @ 4:34:18
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さて、料理が次から次と登場し、中でも久しぶりに食べるオマールエビがシンプルな味付けで個人的にはとてもおいしかったが、そうこうしているところに店長さんが挨拶にお越しになっ (more…)
トラックバック by マーケティング・クラフティング — 2006/4/30 日曜日 @ 4:39:06
こんなん言うたら不謹慎やて怒られるかもしれんけど
やっぱりマーケティングとレンアイって根本のところで
似てますなw
基本的に一人のお客さんをコイビトやと思うて
(片思いの相手やと思うたほうがええんかな)
サービスしたらまず間違いおまへんなw
不謹慎ですんません。
このシリーズ楽しませてもろてます。
みさお
コメント by みさお — 2006/4/30 日曜日 @ 13:32:34
みさおさん、コメントおおきに〜。
> 基本的に一人のお客さんをコイビトやと思うて
> (片思いの相手やと思うたほうがええんかな)
> サービスしたらまず間違いおまへんなw
サービスする側の気持ちとしては全くそのとおりやと思いますわ。
ただ毎日のように涙を流して感動してくださるお客さまが登場するお店って、そんじょそこらのコイビトをはるかに上回った心遣いがあるはずなんですよね。
また、コイビトをとっかえひっかえしながら感動する心遣いにたくさん触れる環境にはない私とすれば、すごいサービスを提供してくれるところでそのサービスを実際に体験することは、随分貴重な体験になると思ってます。
また次回コラムにもコメントいただければ幸いです。
コメント by sakimoto — 2006/4/30 日曜日 @ 17:37:37
仏壇工房の見学‥、ご丁寧な謝辞に感動…
ご遠路、宮城からご住職様とお檀家様におこしいただきました。
前ご住職様の時代、私の父の代‥、ず〜っと長いご縁をいただきありがたく感謝申し上げます。
せ (more…)
トラックバック by 仏壇屋さんの舞台裏 — 2006/6/8 木曜日 @ 6:39:10