【作家インタビュー】vol.5 刺しゅう作家 マカベアリスさん

【作家インタビュー】vol.5 刺しゅう作家 マカベアリスさん
【作家インタビュー】vol.5 刺繍作家  マカベアリスさん

作家インタビュー vol.52021.02.12

刺しゅう作家 マカベアリスさん

CRAFTINGをご覧いただいている皆様、こんにちは。
2月に入って、東京は急にあたたかくなってきました!

昨日は祝日だったこともあって、お花屋さんで出会った
ヒヤシンスとムスカリに家に来てもらいました。

ガラスの器に入れると根がふわりと水中に泡とともに泳いで、
春のかわいらしい息吹を見せてくれています。

今週も、植物の美しい造形を刺繍の世界で描いていらっしゃる
マカベアリスさんにお話しをお伺いします。

第二回目となる今回は、図案づくりやお客様との
心に残ったエピソードをお伺いしました。

どうぞおつきあいいただけたら嬉しいです。

図案をつくるときに大切にされていることはありますか?

植物のかたちそのままではなく
刺繍として美しい在り様に変化させる

マカベさんの図案とお散歩には、とても密接な関係があります。

「最近はコロナのことや仕事が忙しかったので、行く頻度が少し減っていますが、
近くの蚕糸の森公園(さんしのもりこうえん)にカメラを持って出かけています。
もう100年以上続く森を有する公園で、四季折々の植物に触れあうことができるんです」

植物を愛でながら、新鮮な感動を写真におさめ、図案にしていくプロセスが続くといいます。

「そのまま植物を写しとった図案にしても面白くないといいますか。
だったら写真や絵でいいと思うんです。
あくまで『刺しゅうの図案にする』ことを意識して、
植物のかたちを抽象化するようにしています」

マカベさんの植物の図案は、植物の瑞々しいかたちや曲線を活かしながら、
植物の一番輝いているいのちの『形』をとらえ、
愛らしく可憐で印象的なデザインに生まれ変わらせたアートのよう。

蚕糸の森公園の100年も前から植物のいのちがめぐり、刺繍の世界で新しく生まれ変わり、
私たちの手づくりすることの喜びや幸せにつながっている、
そんな風に思いをはせると、とてもゆったりとしたあたたかな気持ちになります。

▲マカベさんの相棒のオリンパスのカメラ。オリジナルの刺繍図案はここから生まれている

▲図案にはいくつもの刺繍糸の番号。上品でやさしい、マカベさんらしい色あわせが生まれる場所

▲身近にある植物のいのちの造形美。テキスタイルのような刺繍の図案のリズムに心癒される

▲CRAFTINGの刺繍キット作品をご紹介いただいた、マカベアリスさんのInstagram投稿より
(@alice_makabe フォロワー数5.8万人)

印象的なお客さまとのエピソードがあれば、教えてください。

手を動かすことで救われ励まされたという経験を伺って、
そんなお手伝いを少しでもできたことに、私の方こそ有難い思いが

作品展や百貨店、ハンドメイドのイベントなどにも出展されるたびに、
お客さまからお声がけいただくことが多いそうです。

「昨年末、デパートのイベントで、初日に駆けつけてくださったお客様がいらっしゃいました。

その方は、ご家族が病を得られ、入院する直前に
絵本『野のはなとちいさなとり』(マカベアリスさん著・ミルトス刊)を
プレゼントされたということです。

その方ご自身も、いろいろな中、手を動かすことで救われ
励まされたという経験があったからです。

ご家族はその後退院され、そして手仕事の力に励まされているとのこと。
そんなお話を涙ぐみながらして下さいました。

手仕事は楽しみであると共に、
辛い時も励ましてくれる友達のような存在だと思います。

そんなお手伝いを少しでもできたことに、私の方こそ有難い思いがしました。」

気持ちが少し弱っているときに、手づくりの世界に出会ったというエピソードを
私も、さまざまな方からお伺いしたことがあります。

そのたびに思うのは、手づくりのモノやコトは、
手の温度がそこに宿るように、心をあたためる、ということ。

誰かを思って手づくりすることは、握手したあとの相手の体温の余韻のような、
ふんわりとしたやさしさが人を癒すのかもしれません。

手仕事に夢中になっていると、ただただ手の感覚だけになっていく瞬間があります。

もやもやした気持ちはいつの間にか手放されて、あたらしい気持ちが生まれてくる時間。

日常のなかに手づくりの習慣があることは、毎日朝になったら窓を開けて、
新鮮な空気を入れるような感覚と似ている気がしています。

先ほどの刺繍絵本『野のはなとちいさなとり』にも、そんな一節がありました。

「それは しろいはな。すきとおるような しろいはな。

―かわいいなあ。きれいだなあ。

きよらかな すんだ くうきが すーっと むねに はいってくる。」

今日のCRAFTINGマガジンはこちらでおしまいです。
今週も楽しい週末をお過ごしください!

▲お客さまとの大切な思い出を丁寧に語ってくださったマカベさん。アトリエにて


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