【作家インタビュー】vol.16 刺しゅう作家 atelier de nora ながたに あいこさん

【作家インタビュー】vol.16 刺しゅう作家 atelier de nora ながたに あいこさん
【作家インタビュー】vol.16 刺しゅう作家 atelier de nora ながたに あいこさん

作家インタビュー vol.162021.05.20

刺しゅう作家 atelier de nora ながたに あいこさん

CRAFTINGをご覧いただいている皆様、こんにちは。

今週は、植物をモチーフにした
ボタニカル刺繍のレッスンをご紹介してくださっている
atelier de nora ながたに あいこさんの
第一回目のインタビューです。

統一された世界観がすてきなatelier de noraさんの作品。

お花のモチーフや特徴的なカラーテイストなど
この作風に、どのようにたどり着かれたのか、お伺いしました。

「植物をモチーフにしたボタニカル刺繍 〈がま口〉」

山歩きのなかで感動した、多彩な植物の世界

「もともとは花だけでなく、色々なモチーフを刺していましたが
今は植物ばかりです。

一生かかってもすべての植物を刺繍することはできないくらい、
種類や色が多彩で、同じ花でも無限に表現方法があるので、興味がつきません。

モチーフに植物が多くなったのは、山歩きを始めたことが大きいと思います。

もともとハコベやオオイヌノフグリのような道端に咲く小さな花が大好きでしたが、
山や森の中を歩くようになって、多彩な植物の世界に感動しました。

そんな時、山へ誘って下さった女性が、
『こんな楚々とした山野草を刺しゅうしたら素敵でしょうね』とおっしゃって
それから徐々に自分のモチーフとして、自然な形で定着してゆきました」

▲烏帽子岳登山で、出会った花たちを刺しゅうに。美しい旅の思い出

繊細な色使いもとても魅力的ですが、お好きな色がおありなのでしょうか?

同じ青でも、自分に合う青、合わない青がある

「カラーテイストに関しては、あまり深くは考えていないのですが、
自分の「好き」を大切にするようにしてきました。

色同士の相性や配色事典的なルールにとらわれてしまうと、面白くなくて。

同じ青でも、自分に合う青、合わない青があります。

このピンクと黄色は合わないけれど、そこにグリーンを入れたら
しっくりくる、ということがあると思います。

無限にある色合わせの中から、意外な組み合わせに出会い、
驚くことが沢山あります。そこがとても面白いです。

色使いの「好き」という感覚は、雑貨店をしていた頃に、
沢山の雑貨や作家さんの作品に触れたこと、
色々な色の作品を、どう並べるとそれぞれが素敵に見えるのかということを
日々考えていたことが影響しているかもしれません」

▲糸はチーズの入っていたケースに、色別に収納されているそう

自分の心が動いたら、自分の「好き」に定着してくる

「自分の好きな、しっくりとくる色合わせを」と思うのですが、
自分の「好き」が、わからない時があります。

何かを見た時に、『この色が好き! この色合わせが好き!』という色を
常に意識していると、だんだん自分の好みがはっきりとしてくるような気がします。

“色に感動する”ということがあると思います。

“ときめく”ような気持ちになることもあります。

絵画や工芸作品だけでなく、
お散歩の途中に見る草花、空の色、前を歩く人のスカートの色、
身近なものの中に、“ときめきの種”は隠れていると思います。

そして自分の心が動かされれば、
それが自分の「好き」に定着してくるのではないでしょうか」

▲「古い紙のラベルやはがき、レースなどを眺めるのが楽しいです」

デザインのモチーフを決めるとき、参考になさっているものはあるのでしょうか?

無意識に目に飛び込んできた景色や草花の記憶

「散歩や山歩きで出会ったお花をモチーフにすることが多いですが、
お散歩や山歩きで、好きなお花に出会っても、あまり写真を撮らないので
頭の中の記憶をたどりながら、記憶の曖昧な部分を図鑑や画集などで補っています。

お散歩や山歩きの時は、歩くことを純粋に楽しみたいので、モチーフ探しはしません。

無意識に目に飛び込んでくる景色や草花が、きっと頭の中に入っていて
それが作品作りの参考になっていると思います。

それ以外では、古いものが好きで、昔の本や紙もの、
刺しゅうやレースなどを眺めていることも
モチーフの参考になっていると思います。

母や祖母、曾祖母から受け継いだ古いデザインのものを眺めるのも大好きです」

▲(左)お母さまから受け継いだひいおばあさまのビーズバッグとハンカチ
(右)そのイメージを真似て、ご自身で刺しゅうされたハンカチ

ふわりとした風、草花の揺らぎ、自由な雰囲気で

 「モチーフを形にするとき、ポイントにしていることは、
あまりリアルになりすぎず、でもその花とわかること。

それから、あまりきっちりとデザインしすぎないことでしょうか…。

自分で刺しゅうする時、特別な場合を除いては
しっかり図案を作らずに、布に直接ペンで描き、刺しゅうすることが多いです。

決められた通り刺すのとは違った、ちょっと隙があって
自由な雰囲気がでるような気がします。

ふわりと風が吹き抜けて、草花が揺らいでいるようなイメージが好きです」

▲布に図案が残る、ブローチの刺しゅうを刺している風景

1本どりで描く繊細な刺しゅうが美しい atelier de noraさん。
1本どりの刺しゅうの好きなところや、気をつけるポイントをお伺いしてみました。

微細で繊細なものの集合、そんな自然を表現したい

「1本どり刺しゅうの好きなところは、繊細な表現ができることです。

ただ、1本どりだけだと、平面的な感じになってしまうので、
2~3本どりの糸と組み合わせて使い、強弱を出すことで、より魅力ある表現になると思っています。

とても微細で繊細なものの集合でできている自然を、少しでも表現できたらな、と思って
取り組んでいます。

気を付けるポイントとしては、
具体的には適切な針を使うこと、
ラインを刺すステッチの時、滑らかな線がでるように
適切な位置で針の出し入れをすること、
最初と最後の糸の処理を気を付けることでしょうか…。

あとは、1本だからといって恐れずに、普段通り気楽に刺してみて下さい」

▲小さな布片に、植物図鑑のように刺しゅうした作品

◆作家プロフィール atelier de nora ながたに あいこさん

公益財団法人日本手芸普及協会刺しゅう指導員。

使う人が手に取って眺める度に、楽しい気持ちになるような
物づくりを心がけている。

刺繍作品の制作、イベント・企画展出品、オーダー制作、
刺繍教室を中心に活動する「atelier de nora」を主宰。

著書に『春夏秋冬。ボタニカル刺繍で彩る服と小物』(KADOKAWA)がある。

作品のように、優しい言葉とあたたかいお気持ちが伝わるお話を、たくさんお伺いすることができました。

今週のCRAFTINGマガジンはこちらでおしまいです。
この続きはまた来週に。良い週末をお過ごしください!

写真:atelier de nora ながたに あいこさん


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